「しあわせ〜! ここ、いいね。ありがと、イチ」
目の前に広がる料理にイキイキと目を輝かせて、頬張ったニノは僕に顔を上げて礼を言った。
「よかった。ホラ、しっかり食べなよ……どうりでフラフラしてると思ったんだ」
「だって、仕事から帰ったら作る気力なくて。もともと家事は苦手だし、簡単なモノですましちゃうんだもん」
「ニノらしい」
「あっ! 笑ったな〜できないワケじゃないよっ」
ツンと横を向いて、彼女はまるで高校の頃に戻ったみたいに喋って、僕を安心させる。
何年も離れていたんだから、お互いに変わっていて当たり前なのに……それを感じさせないニノの無邪気さが嬉しかった。
なのに。
食事を終えお腹を十分に満足させたニノは、口調を改めると僕に話を振ってきた。
〜 step.3 〜
「あのさ、わたしばっかり世話になるのも気がひけるのよね」
と。
年相応の改まった物言いが、僕には苦痛だった。
あまり、気を遣って欲しくはない。以前と同じような関係を築くには、まだ少しの練習が僕には必要なんだから。
「ニノが?」
わざと茶化すように言って彼女の気をそらすけれど、僕の挑発に期待するほど彼女は乗ってこなかった。
「まあ、わたしができることなんて高が知れてるのは確かだけど……なんかないの? 相談くらいなら乗るよ?」
仕方ないと話を合わせる。
「相談?」
「ほらぁ、彼女のこととか。わたしも昔よく聞いてもらったでしょ?」
「ああ……なくはないけど」
そうか、あれを信じているのか。
(――なるほど、ね)
ニノは高校の時からバカがつくほど信じやすく、騙されやすかった。
「なら、遠慮なくどうぞ。百戦錬磨のニノちゃんがズバッと解決しちゃうからさぁ」
しかも、懲りてない。どうしようもない衝動が僕の中に生まれた。
これでは百戦したところで、戦況はあまり変わらないだろうな……とつい苦笑する。
( ニノ。君は、僕の嘘にも騙されてくれるのかな? )
ホテルのベッドに押し倒せば、いまだに半信半疑というボンヤリとした表情でニノはキスを受け止めている。
慣れていない。
僕も、経験が豊富な方の人間ではないけれど、今までに付き合った彼女と比べればニノの反応はぎこちないというか……新鮮と感じるほどに無垢だった。
僕の動きに素直につき従う。
(……ちょっと、可愛すぎるんだけど。僕を煽ってどうするの?)
経験はあると言っていたから、きっと一度はしているんだろうけれど……誰かに染められている、という感じはしなかった。
「んぁ!」
半分、服を脱がせて下着をずらし、確かめる。
少し中に指を入れるだけで、彼女の体は強張って予想以上に狭かった。
「ニノ」
「ん……イチ?」
うっとりと目を細めた彼女に、さっき過った予感に(まさかね、ニノに限って……)と首を振る。
ありえない。
ニノほどモテて、こんなに顔も体も性格も直球勝負の女性が誰ともしたことがないなんて。
それこそ僕の願望なんじゃないの、って思うだろ?
「ちょっと狭いから、慣らしていい?」
「ん。……いい、よ?」
よくわからないけど、とでも言うように首を傾けて、ニノは答えた。
少女が体を開くみたいな、初心な仕草で力を抜く。
僕はさらに(まさかまさか)と期待が膨らんで、一度彼女を快感に震わせてから核心に迫った。
「ッ! い、いた……ぁ、あぅっ」
もがくスラリとした体が強い力で「痛い」と反発した。
「やぁっ!! いちぃ」
腕に食い込む指先も、痛みに耐えて浮かんだ泣き顔も、突き破る感覚もすべて、僕だけのモノにした――。
>>>つづきます。
step.2 <・・・ step.3 ・・・> step.4
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