ニノみたいな女の子がいるのだから、好きだと言われて付き合うのも悪くない、と何回か彼女をつくってみたこともあった。
それなりに恋愛感情のようなものも生まれて、順調に進んだりもしたけれど 何かに 引っかかる。
その引っかかりが何なのか、僕は分からないまま何度目かの別れが来て、やっぱり自分は恋愛体質ではないのかもしれないと半ば諦めはじめていた。
そんな、時だった。
彼女と再会したのは――。
〜 step.2 〜
「イチ?」
仕事帰りの街中で不意に声をかけられ、その方向に目を向けるとよく目立つ少しキツめの大きな瞳とぽってりとした小さな唇の可愛い顔、スラリとした四肢に抜群のプロポーションは淡い色のブラウスに細身のタイトスカートという比較的大人しい出で立ちでも華やかに映った。
モデルみたいに周囲の視線を集めても、彼女はあの頃と少しも変わらぬ様子で駆け寄ってきた。
「ニノ?」
うんうん、と彼女は頷く。
本当に、ニノだ。
何度か、思い浮かべたことがある。
そんな想像は、現実の彼女を目の前にしてみれば幻でしかない。頭の中だけで満足したこともあるのに、それが今は少しの魅力も感じないほどに滑稽だった。
「元気だった?」
ニコニコ笑って、彼女は無防備に仰ぐ。
きっと、高校生の頃と僕に対する認識は変わっていないと言い聞かせる。
「うん。偶然だね」
「ホント、あっちにいた時は全然会わなかったのに……こっちに住んでるの?」
「そうだよ、ニノは仕事で?」
「最近ね、異動になったの……こっちはまだ慣れてなくて」
その甘えるような上目遣いは、彼女のお決まりのポーズだ。
「そっか、じゃあ相談にのるよ? 僕は結構長いんだ」
「わーい」
相変わらずだな、とクスリと笑って、ニノを見る。
当然、いるんだろうなと思った。
相談したいのは、案外そっちが本題なのかもしれない……懐かしい思い出は今考えると拷問のような関係だった。
「彼氏の愚痴も聞くよ、いるんでしょ?」
ニノはピクリと反応して、真面目な顔をして否定した。
「いない、よ」
めずらしいコトもあるんだな、と僕は自分が思うよりも ずっと その事実にホッとしているのに、素直に認めることはできなかった。
そして、「イチは?」という彼女の質問に動揺する。
「 え? 」
まるで予想していなかったから、なんのことかはすぐに理解できなかった。
「彼女、いるの?」
まさか、僕の恋人の有無を彼女が気にするなんて……どういう心境の変化なんだろう?
「いるよ」
だからかな?
つい、口から出まかせがこぼれてしまったのは。
先日、別れを向こうから切り出されたなんて、言いにくいし。
……まあ、言わなくてもいいんだけどさ。
ニノの表情がほんの少し強張って、僕は(まさかね)と戒めながら嬉しくて、ニヤニヤと笑ってしまった。
ニノが僕の初恋なんだ、と再会してから確信した。
あの頃。
どうして、平気だったのか分からない……こんなにも夢中だったのに。
僕は恋愛が できない ワケじゃなかった、ただずっとニノが好きだっただけだ。
ニノだけが。
――とは言え。
(自覚しただけで……だから、どうこうできるってワケじゃ、ないけどね)
>>>つづきます。
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