イチの唇が触れた。
そうして、離れてすぐに耳たぶを甘噛みされて心臓が跳ねる。
耳の中に入ってくる吐息までイチって感じだった。
どんなだっ?!
〜 step.2 〜
「こんなのでどうかな?」
「うん。いい、と思う」
って、普通に返事しちゃってますけど、わたしっ。
ふっ、て耳元でイチが笑った。
ああ、もう! 心臓がうるさいよっ……だって、知らなかったんだもん。
イチがこんなにも男の人だなんて。
しかも、練習のためにキスが出来ちゃう人だったなんて!
何より、そんな キス なのに幻滅するどころか こんなにも 舞い上がってしまえる 自分 がいるなんて全然知らなかったよー。
「じゃあさ、もう一つ相談に乗ってもらっていい?」
定位置に戻ったイチが、いつもの表情で訊いたから頷く。
「ん。いいよ、どんなの?」
「ニノはどんなセックスが好き?」
腰にイチの手があることを、この時ようやく気がついた。
「 はぁ? 」
まさか、彼からそんな単語を聞くなんて思わなかった。
「ニノ?」
イチが怪訝な表情をする。
「もしかして、知らない?」
「し、知らないわけないじゃない……当然でしょ!」
胸を張ってる場合か。正真正銘初心者なんですけどっ!! つい見栄をはりました、ゴメンナサイ。
だって。
これでも蝶の女、と呼ばれてきたわたしだよ? 処女、なんてきっと誰も信じないし!
「口で説明なんてできないでしょ? そういうの」
「まあ、そうだね」
上手くかわせたかとホッとしたのも束の間、普通にコンビニに誘うように「じゃあさ」とイチはわたしをホテルに誘ってきた。
ショックだった。
「ニノ?」
寝てしまえば、彼女からイチを盗れるかもしれないと思ったのは確かだ。なんて、打算的な女なんだ? わたしは。
しかしだ。
本当にイチが最後までするだなんて、本気では思ってなかった。彼は優しくて、誠実で、真面目な……浮気なんて絶対しないタイプの男なんだよ。
だから、涙が零れた。
わたしは。
イチに抱かれて後悔なんてしてないよ、だけど……悪いと思った。
わたしみたいな幼稚な女、イチには似合わないよ。ごめんね。でも、好きなんだもん。手放したくない。
「なんで、泣いてるの?」
「べ、べつにっ泣いてなんか!」
「初めてを、僕なんかに奪われたから?」
「は?」
「本当は――男性経験、なかったんでしょ? ニノ」
そう覗きこむ優しい人の眼差しはほんの少し曇って、わたしの乱れた髪を梳いた。
>>>つづきます。
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