一体、わたしは何をしてるんだろう。
不毛だ。
でも、美味しいものを目の前にしてしまうと、そんな考えはスコンと抜けて大好きな彼との時間を満喫してしまう。だって、目の前のイチは優しくて、以前と変わらない眼差しで微笑んでる。
「しあわせ〜! ここ、いいね。ありがと、イチ」
「よかった。ホラ、しっかり食べなよ……どうりでフラフラしてると思ったんだ」
「だって、仕事から帰ったら作る気力なくて。もともと家事は苦手だし、簡単なモノですましちゃうんだもん」
「ニノらしい」
「あっ! 笑ったな〜できないワケじゃないよっ」
ツンと横を向いて、まるで高校の頃に戻ったみたいなやりとりに涙が出そうになる。
手放したくない。だから、不毛でも彼女に悪いと思ってもこの関係を壊すことができないのだ。
「あのさ、わたしばっかり世話になるのも気がひけるのよね」
と、食事を取り終えひと心地ついた頃に提案してみた。
「ニノが?」
意外、という表情にムッとして「そうよ!」と言い返す。
「まあ、わたしができることなんて高が知れてるのは確かだけど……なんかないの? 相談くらいなら乗るよ?」
「相談?」
「ほらぁ、彼女のこととか。わたしも昔よく聞いてもらったでしょ?」
「ああ……なくはないけど」
「なら、遠慮なくどうぞ。百戦錬磨のニノちゃんがズバッと解決しちゃうからさぁ」
かなり疑わしい目で見られたけれど、イチも相談する気になったらしい。
さぁ、来い。
わたしは 好きな 男を手に入れるためなら、どんな卑怯な手段も厭わない 悪い 女なんだよ。残念だったね、イチ。
ふふふ、と薄く笑ったわたしを、イチが少し困ったように眺めていた。
〜 step.1 〜
それから、イチは場所を変えようと言った。
どうやらあまり人には聞かれたくない相談事らしい。落ち着いた飲み屋、というよりはバー? に移って、ようやく口を開いた。
「ニノはどんな男が好き?」
イチが好き、とは流石に言えなくて、「うーん?」と唸る。
「どうして?」
なんでそんなことを訊くの? と逆に尋ねてれば、「僕って面白みがないからさ」と笑う。
「えー? そう? そんなことないよーそりゃ、派手さはないけどさ。イチは優しいし、結構人気あったじゃん」
「あー、うん。いい人ってよく言われるけど……」
「そうでしょ? わたし、イチみたいないい人知らないよ。なんで、そんな弱気なの?」
まさか、今の彼女が浮気してるとか?
あり得ない!
イチを振るなんて何様?! 勿体無いよ!!
「ガンガン押せばいいんだよ! イチだったらどんな女でも落とせるって」
「……え? でも、昔ニノは強引な男はダメだとか言ってなかった?」
「え?」
そんなこと言ったっけ?
……そういや、高校の頃付き合った男でいたっけ? 無駄に胸とか尻とか足とかに触ってきてさ、速攻別れてやったんだった。
だって、アイツ最低だったんだよ。当たり前みたいに服を脱がそうとするんだもん。
とか、そんなことをイチに。
「はははは、そういやあったね! そんなこと」
昔のわたし、なんて相談してるんだよっ。それじゃ、タダの尻軽女みたいじゃん! ばかーっ。
「いやいやいや、わたしだって成長するよ。うん、多少強引なのもオッケーっていうか、要は気持ちの問題なんだってば!」
「気持ち?」
「そう、好きって気持ちがあればね……いい、と思うよ」
あれ? わたし、何を真面目に相談に乗ってるんだ?
別れさせるのがもくてきーっ、これじゃ普通に彼女と上手くいっちゃうじゃん!
「そうなんだ、僕は消極的すぎたんだね」
とイチはやけに納得して、わたしに笑いかけた。
ちょっと、ドキリとする艶っぽい微笑みで今まで見たこともない表情をしている。
「ん?」
肩、抱かれてますけど?
顔、近いですけど??
わたしの心臓、Maxでトキメいてますけどっ。
>>>つづきます。
step.0 <・・・ step.1 ・・・> step.2
|