四月。
その日はイチが外食に誘ってくれて、ウキウキと出掛けた。
イロイロ気になることはあるけれど……たとえば、一度避妊をせずにして以来体を重ねていないコトだとか……なんかイチが隠し事をわたしに対してしているみたいだとか……気にすれば、落ちこむこと請け合いなオンパレードなんですけど!
何はともあれ、外食。デートのお誘いだもん、楽しまなくちゃソンだよね?
「待った?」
「ううん、今来たトコだよ?」
なんて。
まだ日の高い時間にやってるんだよ? まるで、学生みたいじゃない?
すごい、すごい。
手を叩いてはしゃぐわたしをイチは昔の見守るみたいに静かに笑って見ている。
「な、なに?」
ドキッとして、つい訊いてしまった。
〜 jump.4 〜
「ん。いや、変わらないな、と思って」
なにそれ、成長してないってコト? ムムッ……ハッ!
イカンイカン、なんか最近思考がネガティブだよ、わたしっ。
イチはきっと、悪い意味で言ってるんじゃないし! うん、そうだよ。成長してなくてつまんないヤツってコトじゃ、ないよ、きっと!
「ニノ?」
わたしの顔を覗きこんで、イチは心配そうな表情をした。
ホラ、ちゃんと気にしてくれてる……大丈夫。
にこっ、と私が笑うと「どうかした?」とすんなり手を繋いで歩く。
うわっ!
わわっ、ど、どうしたの?! いきなりっ。
「い、イチ……!」
初めてだ、手を繋いで歩いたの。本当に、普通のデートみたい。
振り返るイチに「どうして、手を繋ぐの?」なんて訊けない。訊いたら、魔法が解けるみたいに消えてなくなりそうだもん。怖い怖い。
不思議そうに首をかしげる彼に、「どこ、行くの?」ともう本当にどうでもいいコトを訊く。
イチと一緒だったらどこだっていいんだ……「まだ、ヒミツ」って言う彼にわたしは泣きたくなって俯いた。
「に、ニノ?!」
慌てたイチの声に、わたしはようやく気づく。
ああ、本当に泣いてる。イチ、ビックリしてるよ……ごめんね、驚かせて。
「な、なんでも……」
頭を振って、わたしは「なんでもないわけないじゃん」と心の中で思う。
もう、死んじゃう。いつまでイチと一緒にいられるのか、不安で、寂しくて、死にそうなの。
ウサギは寂しいと死んじゃうんだよ?
「イチ、わたしのこと、好きだよね?」
途切れ途切れのたどたどしい言葉で訊く。
「好きだよ」
「ホント?」
「うん、どうしたの? 何か不安?」
「だって、イチしなくなった。わたしが子ども欲しいって言ったから? 面倒になった? 隠し事もヤダよ」
なんか自分でも情けないくらい、子どもだ。子どもが子どもつくってどうする? とか言われそう。
大丈夫、代わりにお父さんは落ち着いてるから。イチだから。
「あー。ごめん、不安にさせて。ニノに言うと姉さんに筒抜けっぽいからさあ」
「? センセに?」
それに、なんの問題が?
という、わたしの声がイチには届いたのだろう。
「いや、だから、そういうトコが……口止めできないなと思ったんだよ」
「口止め?」
「うん、説明するより行こう。そしたら言うから」
イチの云わんとしていることがよく理解できなくて、わたしは彼に手を引かれショッピングモールのウェルカムアーチをボンヤリと見上げて涙を止める努力だけした。
わたしがイチと入ったのは、貴金属の結構有名なブランドショップだった。
目の前に広げられた煌びやかな装飾品……というか、コレ、指輪?
だね。
しかも、左手の薬指に入れられてたり。
「えっ! 指輪!!」
ビックリして、横のイチに顔を上げ困ったように笑ってる彼と目が合う。ついでに、ガラスケースの向こうにいる店員の女の人も苦笑い。
周囲のお客さまにまで、注目されてたり!
声、大きかったですかっ、ごめんなさい!!
口元を押さえつつ、わたしはイチにもう一度目線を合わせ彼がなんて言うか待った。
「もちろん、婚約指輪。結婚指輪も決めれたらと思って嫌なら言って」
「……イヤ、」
イチの目に失望が浮かんだ気がした。
バカ、普通わかるでしょ?
――わたしが、あなたに 夢中 だってことくらい。
「じゃない! するっ、絶対する! 今すぐ結婚して!!」
ガバッと彼に抱きついて、左手の薬指にはピタリとはまる銀色のリング。周囲の注目なんてもう気にしないの。むしろ、みんな見てよ! わたし、結婚するよ、イチと!!
祝福の電報、大歓迎!! ドンと来いっ。
「ちょ……ニノ、くるしいって!」
と、イチに諌められるまではしゃぐわたしは彼に抱きついてた。
スッポンニノちゃんを舐めんなっ。
>>>つづきます。
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