窓の外で、ドサッと何かが落ちる音が聞こえた。 ベットルームで眠りに落ちていた朱美はうっすらと目を開けて、ふふふと笑った。 「なにがおかしいの?」 と、眠っていると思っていた菫に訊かれて、顔を上げる。 「起きてたの? 菫さん」 「うん、今の音で」 元来、物静かな性格の菫は言葉少なに言って朱美の答えを促す。 「ユキ、って名前にしようと思って……可愛いと思わない?」 「………」 菫は寝起きの頭で考えて、彼女の嬉しそうな顔をまじまじと眺める。 「なんの話?」 朱美はくすくすと嬉しそうに笑って、彼へと告げた。
「子ども。――バッチリ危険日だから、出来てると思うの」
蒼馬の件以来、朱美のコレは完璧だった。基礎体温はもちろんのこと、常に排卵予定日を把握している熱の入れようで、菫もこれには(なんで、そこまで?)と疑問を抱きながらもイロイロと活用させてもらっている。 まさか自分の発言のせいで朱美が必死になっているとは まったく 、思っていないトコロが彼らしい。 ……その彼女が、「危険日」だと断言するのだから、本当に「危険日」なのは間違いがない。 「怒ったの? 菫さん」 黙ってベッドから起きだした菫に、朱美が心配になって訊いた。 「べつに」 存外に言葉少なく返して、上にシャツ下にズボンを履いた彼はふと、しゅんとなった朱美に首を傾げた。 「朱美?」 「なによ」 むぅ、とむくれた彼女は悪態をつくと泣きそうな顔で菫を睨んだ。 「だって欲しかったんだもん、菫さんはまだいいよって言うけど。わたしは……菫さんの子どもがもっと欲しいの!」 立った菫にバッと抱きつき、しがみつくと朱美は震えた。 「なにも怒らなくたっていいじゃない〜、ばかあ」 「怒ってないよ? べつに」 ポンポンと泣きつく朱美の背中を叩いてなだめ、菫は静かに笑った。 「朱美が作る気だったのは、分かってたしね」
「 へ?! 」 びっくりした朱美はベットに下ろされて、さらに押し倒されて目を丸くする。 「うそ、なんで?」 「そりゃあ、分かるよ。だってノーブラだし、勝負下着だし、避妊はさせないし、何回も迫ってくるし」 ここまで条件が揃えば、いくら最中とはいえ気づく。 おおよそ彼女らしくない。が、じつに彼女らしい仕掛け方だとも思う。 「だから、怒ってない」 「……じゃあ、なんで不機嫌なの?」 「……不機嫌ってワケでもないんだけど、ただ――」 押し倒した格好で横たわった朱美を見下ろし、菫は言いあぐねた。自分でも複雑で、どう表現していいのか困る。 「ただ、後悔してる。君をとられるのは、蒼馬だけで十分だったのに」 ほんの少し、自嘲気味に呟いて菫はポカンとしている朱美にくすりと笑った。 「なんて。僕が思っているのは、蒼馬にはヒミツだよ?」 人差し指を立てて、菫はそっと彼女の紅の落ちた唇を撫でた。
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