「知ってるわよ、失礼な」 頬を紅潮させて、ぷくりとむくれる。 「僕が思うに、 普通 クリスマスにお化け屋敷みたいなことはしないと思うんだけど?」
ふと、ハロウィンの頃の彼女のバカ騒ぎを思い出してしまった。 黒いマントにツギハギのトンガリ帽子、見習い魔女っぽい格好にオオカミ女を意識したような尻尾と耳をつけて、カボチャオバケのランタンを手に持った彼女は、今年小学校二年目に入った一粒種の息子・蒼馬に「おかしをもらいに回れるのは、子どもだけなんだけど? おかあさんもいく気なの?」とかごく真面目に指摘されて、高崎町の子ども会の催しに参加できない事実にガーンとした表情で本気でしょげていた。 その夜、蒼馬が(母親の格好に比べれば)地味な魔法使いの格好で子ども会の「ハロウィンイベント」に向かったあと、ブチブチと「どうして大人は参加しちゃいけないのよ」「不公平だわ」「すっごく楽しみにしてたのに」などなど途中からはあまり何を訴えていたか覚えていないが(何しろ、彼女のその 奇抜な 服を脱がすのが面白かった)……最中にまで延々と愚痴をこぼしていたことを考えれば、クリスマスなら大人も参加していいわよね、と結論づけたことは容易に想像できる。 だからと言って、まさかクリスマスにハロウィンみたいなイタズラを試みるのは彼女 だけ かもしれないが。 (コンニャク……朱美らしい発想だなあ) しかも、その可愛いお化け役は眠ってしまって獲物を仕留め損なっているという。 「そ、そんなに笑わなくたっていいじゃないさ。だいたい、菫さんが遅いんだもん……せっかくのクリスマスなのに」 「ふ……ご、ごめん。それは謝るけどさ――仕事だから」 服飾関連企業である「苑〔えん〕」の紳士服部門の営業を担当(そのスラリとした長身と色素の薄い髪、独特の紫がかった瞳の甘い顔立ちからモデル役にも狩り出されていたり)している菫は、今日はメインではないにしろとある市内のイベント会場でファション・ショーの企画に携わっていた。そして、今日でそのイベントも無事終了ということもあり、事後処理のあとは軽い打ち上げになって時間がすこし遅くなったワケだ。 もちろん、朱美もそのあたりの事情は理解している。 仮にも妻だし、彼がこの仕事に就いてからはクリスマスなんていう格好の行事の時に仕事が入らなかった例〔ためし〕がない。 『……今晩の冷えこみは、この冬一番となりそうです。あったかくしてお休みください、それではまた明日』 まだやっていたらしい天気予報に、菫は腕の中を覗きこんで訊いてみた。 「だってさ、朱美。どうする?」 「 訊かないでよ、バカ 」 恥ずかしそうに俯いて、それでも朱美は拒否しなかった。 「……菫さんって、律儀なんだかエッチなんだかわかんない」 「なんで?」 くすり、と笑って、菫は静かに背後から唇を寄せた。 「 僕なんてすっごくわかりやすいのに 」
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