12月24日、夜。
高崎町の閑静な住宅街にある自宅(二階一戸建て)に立った竜崎菫は、電気のついていない家の様子にしばらく思案して、とりあえずチャイムは鳴らさずに持っている鍵で扉を開けた。 シン、と静まり返った家は昼間の喧騒が嘘のように彼を迎えた。 「ただいま、っと」 玄関先に鞄を置いて、リビングを覗く。 「 朱美? 」 人の話す声がわずかに聞こえて、妻の名前を呼んだ。が、耳にした声は彼女の潔いほどの無邪気なモノではなく、どちらかと言うと事務的な無機質な女性の声だった。 それでも、どこか聞き覚えのある……そう思って、リビングに入って菫は思わず笑ってしまった。 『――今夜、クリスマスイブの夜は残念ながら全国的にホワイトクリスマスとは無縁の快晴のお天気でしたが、明日のクリスマスは一部の地域で雪の予想。やや荒れ模様のお天気となるでしょう……天気図は……』 クリスマス・ツリーの横。 電源がついたままのテレビからは、気象予報士の肩書きを持つ女性が一方的に天気予報を続けている。 「朱美」 「……ん」 リビングのソファに座り、テーブルに突っ伏した妻は夫の声に身じろぎ、少し身体を浮かしはしたものの起きる気配はなかった。テレビの青い光源に照らし出されたおだやかな彼女の寝顔から、いい夢を見ているにちがいないが。 菫は背後から彼女の耳へ唇を寄せて、そっと身体を抱き寄せた。 「朱美、起きて」 「 わっ! 」 と、いきなり耳たぶに忍びこんできた生温かい息に朱美の身体がビクリ、と反応する。そして、ぱちくりと瞬くと、抱きすくめられている事実に真っ赤になって暴れた。 「え? 菫さんん??」 「ん。ただいま……何してたの? コレ 」 朱美の足元にあったモノをくすくすと笑いながら指差して、菫はさらに抱き寄せる。 やわらかな彼女の身体が心地いい。 その彼の腕を掴んで引き剥がそうとしながら、朱美は「え?」とその方向に顔を向けた。 「 あ! 」 彼女は素っ頓狂な声をあげて、そろそろと菫の方をうかがった。 抵抗もこの時になると、惰性というか……なんとなくやっておかないと気詰まりなのでやってますという程度になっている。 「おかえりなさい……」 ようやく目が覚めたらしい朱美はおずおずと仕事から帰った夫に言った。 「まさかとは思うけど、コレのために電気消してたとか?」 「う、だって……暗くないと雰囲気が出ないじゃないさ」 「ふーん、やっぱり朱美って面白いね」 棒に結ばれた糸には、コンニャクが装着されている。それを眺めながら、菫は我慢しきれず彼女の首筋に額を落としてしばらく震えていた。 「今夜は、クリスマスイブだって知ってる? 朱美」
1 ・・・> くりすます・エデン。2
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