一瞬、何の話かと思って菫は止まった。
「は?」 むぅっ、と口をすぼめた朱美は、束縛が解けたのを見逃さずに、がばりと身を起こす。 「2日くらい前から違うの使ってるじゃない、分かるのよ」 「ああ、……」 確かに、朱美の指摘どおり2日前から香水は、変えている――が。 「それで、なんで朱美の機嫌が悪くなるんだ?」 「だって、変じゃないさ。香水つけるようになって、ずーっと同じモノを使ってたのにイキナリ……なんて。誰かから、貰ったんじゃないの?」 「ああ、そういう……」 内心、焦っていた菫は息をつくと、くすりと笑った。 原因が分かれば、何てことはない。 むしろ、笑みがこぼれる。 嬉しすぎて――。 「朱美サン」 頬で揃えられた黒髪に触れ、ふっくらとした頬を撫でる。 不機嫌そうな眼差しも、まるで甘美な飴〔あめ〕のような気がする。 「それって――ヤキモチ?」 くすくすと声を立てて、菫は分かりきったことを訊いた。 うかぁ! と朱美は赤くなる。そして。 「笑うなんて、ひどい!」 睨んで、朱美は目の前のウキウキと弾むような……色素の薄い瞳に捕らえられた。 「ん……ぅん」
文句を言うために開いた口は、彼のそれで塞がれて侵された。意識が朦朧〔もうろう〕としてくる。 絡められる舌。 乱れた毛糸のセーター越しに最初、上から触れていた彼の手が徐々に下に下りて、中に入る。彼女の身体を捕らえていた腕は、彼女をソファに押し付けると、太腿に――。 芥子〔からし〕色のロングスカートは「くすぐりの刑」の時から乱れて、ほとんどめくる必要がなかった。 「ん、ふぅっ!」 キスをして声を出せない朱美は、顔を苦しそうに歪めた。 菫の肩のシャツに触れて、爪を立てる。 「んん、ハァッ……!」 ようやく離れた唇に、朱美はふかい息を吐く。絡み合った舌が、明るい午後の光の下で綺麗な糸を引いた。 息を吐いて、朱美はまじまじと菫を仰いだ。 「やっ!」 朱美の身体を電気が走った。 セーターの中に入った菫の手が、朱美のブラジャーを押し上げて授乳期の豊満な胸を直接愛撫する。 「やだ、菫さん」 慌てて、朱美は菫の手を止めようとする。 「なんで? ホラ、こんなに出来上がってるのに」 そう言って、太腿を撫でていた指を、やらしく朱美の一番敏感なところに下着の上から添える。 「や! だって! まだ、聞いてないし」 「何を?」 「香水のこと! やぁっん、入れないで!」 ふ、と菫は下着の中に入ろうとしていた指を止めた。 朱美がホッとしたのも束の間、菫はにこりと微笑むと悪戯っぽく上目遣いで彼女を見る。 「コレが終わったらね」 と。 じつに楽しそうに彼の前髪がサラリと揺れた。
ホワイト・デーの午後。3 <・・・ 4 ・・・> ホワイト・デーの午後。5
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