ワイト・デーの後。2


〜Sumire and Akemi〜
 エッチ度=★☆☆☆☆
 ホワイト・デーの午後。1 <・・・ 2 ・・・> ホワイト・デーの午後。3



 キッチンから、ココア入りのマグカップを持ってきた菫は、そのひとつを朱美の前に置いた。
「落ち着いた? お母さん」
「うん」
 たはは、と照れたように笑うと、朱美は彼が用意したココアに口をつけて――。
「あ」
 と、口を開けた。
 自分の身体を触って、次にキョロキョロと辺りを見渡す。
「プレゼントがっ、あれっ?!」
 立ち上がって、ぴょんぴょんと飛んでみる。が、「ない」と分かると、リビングを出ていこうとする。
 扉に向かう朱美に、菫が声をかける。くすくす、と笑っている。
「朱美」
「ごめん、菫さん。ちょっと探し物……」
「って、 コレ のこと?」
「へ?」
 振り返った朱美が、ビックリした。

「落ちてたよ、そこに」
 ちょうど、今、朱美が立っている足元を指して言う。
 むぅ、と口を尖らせると、朱美はテーブルに戻って菫から箱を受け取った。
「朱美?」
「………」
「顔、赤い よ」
 唇を尖らせて、しかめっ面のまま朱美は「当たり前よ」と恥ずかしそうに菫の顔から目を背けた。
「もっと、早く言ってよ」
「………」
 いや、まさか ワザ と黙っていたとは言えないなあ……などと、悪意なく思いながら、物静かな夫はおっとりと微笑んだ。


   *** ***


 朱美の用意したホワイト・デーのプレゼントは、ギュウギュウに詰まったピンクの――。

 隣の菫が、笑う。
「マシュマロ?」
「だって、ホワイト・デーって言ったらそうじゃないの?」
 笑う菫に不可解そうに首をかしげて、朱美は言った。
「そうだけど」
 しかし、と菫はまじまじとそれを見る。――箱に詰めるだけ詰まった、ピンクのマシュマロというのもめずらしい。
 くすくす、と楽しそうに笑うので、朱美はさらに渋面になった。
「そんなに、変?」
「まあね」
 あんまりあっさりと、肯定されて朱美は不機嫌そうに彼を睨んだ。
 菫はその視線をさらりと無視すると、ピンクのマシュマロを取り、まだ熱いココアに落とす。
 じんわり、と蕩〔とろ〕けたマシュマロを口にすると、不機嫌な妻を抱き寄せた。

 唇を寄せて、頑〔かたく〕なに閉じようとする朱美の唇を器用に開ける。
「んーっ!」
 拒否しようとして、できない朱美は身じろいだ。
 彼女の口内を優しく撫〔な〕でた菫は唇を離して、彼女を覗〔のぞ〕き込む。
「なんか、朱美。最近、変だよな」
「………そんなこと、ない」
 あきらかに、動揺した黒の瞳に菫はさらに言った。
「蒼馬の件は置いといて、……なんか怒ってない? 俺に」
「………知らない」
 つーん、と横を向いた朱美は、気づかない。
 彼女の毛糸のセーターの腕に触れて、菫の手が動く。

「そ。だったら、仕方ない、か」
 最近の朱美は普段は、まったく変わりないくせにこういう展開になると、妙に頑なだった。
 最初は――普通に抱きついてくるし、笑うから――ただの気のせいか……とも、思ったのだが。
 こうも態度が、険もほろろだと 問題 がある。もちろん、夫婦生活において、というか。
(――そろそろ、限界だし)
 と、本当は「こういう」無理強いは主義ではないと、菫の心の端が焦〔じ〕れた。


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