ギシギシ、とベッドのスプリングがしなった。
ポタリ。 と、菫の濡れた髪から滴〔しずく〕が朱美の肌へと落ちる。 ほんのりと赤く上気した朱美の肌には、まるい玉の汗が浮かんでいた。太腿〔ふともも〕の内側も汗ばんで、菫と繋がっている場所で互いの汗が交じりあう。 不思議な音色が聞こえた。 どこか幻想的で、卑猥な水の……弾ける音。 箱の中身をつけた菫は、今は朱美の中にいる。 「はぁん、ぁん、ぁん……ぁぁぁひゃぁんん!」 身体のリズムに乗って、朱美の甘く掠れた声が上がる。菫の荒い息遣いが他には音のない夜の闇の中に溶ける。 「あ、けみ?」 強く突き上げ、そして時に引き抜くその動きが、ことごとく彼の愛妻から思考という理性を奪っていた。 そろそろ互いが、互いを求めて限界に達する頃だ。 汗ばんだ朱美の肩を抱き、朱美も膝を立てて彼を誘うとその腕に捕まる。 ふにゃり、と朱美のふっくらとした二房〔ふたふさ〕が天辺〔てっぺん〕の鮮やかな蕾とともに菫の裸の胸にすりついた。ジリジリとした刺激が、走っていく――。 「好、き……ぁぁん」 とろん、とした声で朱美が言った。 「んぅ! 大好きよ、…は…ッんはぁんん!」 もう、すぐそこに白い光が見える。 暗闇の中で、うっすらと瞼を開け、朱美が最後に見たのは菫の色素の薄い藤色がかった瞳と彼らしい言葉。 「俺も。……、でも、女の子はみんな、好き、だから、朱美は――」 キレイな眼差しとともに、彼は眉をひそめた。朱美にキツくしめられて、とどめていたモノが解かれた。 「愛してる、かな」 あらい息の中、菫は最後の言葉を吐息とともに告げた。
*** ***
裸身を横たえた朱美は、火照〔ほて〕りを冷ますために半身を持ち上げた。 「 妙 よね、やっぱり」 隣で彼女を抱いていた菫は首を傾げ、「ああ」と頷いた。 「朱美が、箱の中身を スッカリサッパリ 忘れて、エッチしようとしてたコト?」 むっ、とまっすぐ夫に向き直ると、妻は睨んで言った。 「違うってば。菫さんがこんな女好きで、スケベなのにモテるってコト!」 「……心外だ。スケベはともかく「女好き」は ない だろう?」 光のない部屋で、うっすらと分かる朱美の裸身に目を細めて菫は異議を申し立てた。
「却下。女の子はみんな好きなんだから、 立派な 「女好き」じゃないの!」 「ああ、その話か」 何の話かようやく納得して、くすりと笑う。 「何? 愛し方、足らなかった?」 「ちがっ……ん……」 朱美が否定しようとするのを待たずに淡いキスをひとつして、菫は耳元で囁いた。 「かわいいよ、そういうトコ」 (思わず、からかいたくなる……)と。 朱美の身体を枕に押し付け、彼女の短く頬のあたりでそろえられた黒髪が乱れた。
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