うでもい話 10


〜Sumire and Akemi〜
■読むまえに、ご注意ください■
こちらの 「どうでもいい話」 は、
「龍の血族〜Sumire and Akemi〜」のおまけ短編小説です。
時間列としては、「ファインダーの向こう側」のその後。
の、さらにその後の話。から、続いた 別話 です(←こらこら)。
なので、サブタイトルもじつはあったり(^_^;)。
単品としても読めなくはありませんが、
消化不良予防の為
事前に、「ファインダーの向こう側」……と、 「どうでもいい話」7 and 8
読むことを オススメ します。
 エッチ度=★☆☆☆☆



 パッ、パッ。
 と、素早く焚かれるフラッシュと銀色の板でライトの光を一身に浴びて竜崎朱美〔りゅうざき あけみ〕は比奈東吾〔ひな とうご〕に言われるがまま、ポーズをつけて笑ってみる。

 にこ。

(……笑ってる場合じゃないっつーの。わたしの馬鹿!)
 いっそ、心置きなく ココ で泣きたい。
 心は、ドシャ降りの大雨だった。
「もっと、笑ってくれない? 朱美さん」
「イ・ヤ」
「……旦那さんにバレたからって、そんなに落ちこまなくても」
 少しクセのある、独特のイントネーションだった。軽々しく、そんな慰めを口にする男性カメラマンに朱美はムゥと唇を尖らせて、泣きたいと力いっぱい表情で訴えた。
「ゼッタイッ、 イヤッ!
 パシャ。
 と、それを思いっきりカメラにおさめられて、朱美の癇癪〔かんしゃく〕はピークに達した。
「撮るなーっ!」
「いや、だって約束でしょ?」
「ぐっ……」
 隠れたところで拳を握る。
 スタジオの出入り口近くでジッとこちらを見ている、竜崎菫〔りゅうざき すみれ〕の静かな眼差しに針のムシロだと朱美は思った。
 あとで、絶対問い詰められる……と思うと、過去の自分を抹消したい気持ちだった。

 それもこれも。
 一週間前にあった、女子高時代の同窓会がすべての発端だった――。


   *** ***


 少量のアルコールを含んだチューハイを煽った朱美は、ほどよくご機嫌で宇佐美早由紀〔うさみ さゆき〕たち旧友と若かりし頃の思い出に花を咲かせ、近況を伝え合う。
「いやーん、そうなのぅ? 今度、わたしも教壇に立たせてよーシッカリ、性教育やっちゃうゾ」
 きゃはははっ、と明るい声で朱美がクダをまきはじめると、流石に周囲でコソコソとした相談がはじまる。
 もともと、ジュースだけでも酔っぱらうことができる才能の持ち主である 彼女 に微量とは言えアルコールを摂取させた時点で間違っていた。
「どうする? 早由紀……朱美、かーなーりー出来上がっちゃってるけど?」
「んー、大丈夫でしょ? いざとなれば、旦那を呼べばいいワケだし」
 早由紀の提案に、ほかの旧友たちの瞳が輝く。
「朱美の旦那って、あの高校時代にチョー有名だった竜崎くんでしょ?」
「見たーい! そういえば、わたしもバレンタインにチョコレートあげたことあるんだー」
「えー! ソレ、初耳」
「朱美の彼って、知らなくてさー。ほろ苦い思い出よー」
「そっかー、じゃあ「ほろ苦い」思い出の に来ていただきましょ」
 早由紀が面白半分に鞄から取り出した朱美の携帯を開く。と、スッと 誰か の手がそこに伸びた。

「だぁぁぅめ」

 先刻〔さっき〕まで出来上がっていた ハズ の朱美が早由紀の手から携帯をスルリと奪って、素の顔で彼女たちのささやかな野望〔ゆめ〕をパチンと阻止した。
「すみれさんは、わたしのだもーん」
 やっぱり、出来上がってる……とガックリと項垂れ、彼女たちはそんな朱美に呆れた。
「んもー! すみれさんの代わりにキスしちゃうー」
 ちゅー、とキス魔に豹変した朱美は、旧友たちの「うぎゃー! やめろー」「酔っ払いだー、酔っ払いがいるぞー」「即刻、帰れっ!」などなどのブーイングにもへこたれることなくご丁寧に全員のホッペにキスして回った。
 それぞれに、バッグからハンカチを取り出した彼女たちは、スッキリしたような朱美を恨めしそうに見て「まったくもう」と頬を拭う。
「ベトベトじゃない」
「だって、ホラ、見てよ。この娘〔こ〕、ケーキ食べてんのよ? どさくさに紛れて」
「うわっ、ホント! 相変わらずちゃっかりしてるのねー」
 ペロリ、と生クリームのついた唇を舌で舐めた朱美は「おいしかったわ」とご満悦に周囲を見渡した。

「ん?」

「なに? どしたの? 朱美」
 首を傾げた彼女に、早由紀が訊いた。
「んー? 視線を感じたんだけど……気のせいかしら?」
 そう言う朱美の視線の真ん前で、一人の男性が席を立って近づいてきた。
「お久しぶりです、竜崎さん」
 独特のイントネーションと見覚えのある顔。

「…… あーっ!

 間近に来て、ようやく思い出した人の顔に人差し指を突きつける。

エロカメラマン!!
「普通のカメラマン、比奈東吾です」

 苦笑いを浮かべて、彼は朱美の不躾な言葉を正しく 訂正 した。



 朱美たちグループの飲み代を奢〔おご〕ると言い出した東吾を、朱美は丁重に断った。
(こんなところで、下手に借りをつくってなるものか……)
 頑なに首を振り、レジまでやってくると、そこに罠があった。
 飲み屋というのは 何故か 決まって薄暗い。そして、出入り口付近のレジあたりでは 何故か 当たり前のようにわずかな段差がある。
 けつまずけ、こけろと言わんばかりだ。
 ご希望に洩れず朱美はそこで足を ちゃっかり 踏み外し、しつこく後ろについてきていた東吾に支えられそうになった。
 が。
「わっ!」
わーっ!!
 思いっきり振り払われ、その勢いに彼は重心を後ろへ傾ける。そこに、さらにバランスを崩した朱美が勢いよく倒れてきたものだから二人して、床に転がるハメに陥った。
 どんがら、ガチン、と歯があたる。

 ガチン?

 ……って、ドコに?


   *** ***


 比奈東吾の上唇に貼られたバンソーコーを恨みがましく見上げ、朱美は回想を終了した。
 差し出された手を振り払ったあげくに顔に怪我までさせて(たとえ、相手がエロカメラマンであろうとも!)知らん顔ができるほど 能天気 に出来ていない 自分 が恨めしい。
「はー」
 本日、幾度目のため息か。
 落ちこむ彼女の視線の外で、スタジオに灘亜紀〔なだ あき〕が入ってきたことも……その彼女が出入り口付近の菫に何かを耳打ちしていたことも……朱美は まったく 気づいていなかった。


おわり。

■暴風、ときどき Kiss 警報。その後。■

 灘亜紀〔なだ あき〕から、ことの一部始終を聞いた竜崎菫〔りゅうざき すみれ〕は彼女らしいと思った。
(ここ、一週間……元気がないと思ったんだ)
 どうも、自分がスタジオにやってきたことで、落ちこんでいるらしい彼女にどうしたものか? と考える。
(べつに、怒ってないんだけど……)
「竜崎さん」
 いま、スタジオに入ってきたらしい亜紀に、名を呼ばれ……耳打ちされる。

『 入ったらどうですか? 』

「入る?」
「ファインダーの中に、ですよ。比奈さんも ソレ 狙ってますから」
 ふふっ、と笑って「わたしも撮りたい」とひとりごちる。
「比奈さんに譲るのは、じつは悔しいんですけどね」
 などと、カメラマンの情熱は菫にはよく解からない。
 しかし、元気のない彼女を放っておくのは耐え難かった。それが、あの いけ好かない 男の思惑にハマることだとしても――。

「 あなたもいかがですか? 竜崎さん 」
 カメラを持って上唇にバンソーコーをこれ見よがしに貼った東吾は寸分違わぬ タイミング の良さで菫に声をかけた。



 菫が抱きしめると、朱美が縋〔すが〕りついてきた。
(可愛い……)
 と、人目もフラッシュを焚くカメラも憚らずに抱き寄せて、さらに密着するとその彼女の顎をとる。
 仰向かせると、朱美の瞳は潤んでいて「なによー」と憎まれ口を叩いた。
 これは、照れている彼女の常套手段だ。
「どうせ、呆れてるんでしょ? 菫さんのカバっ」
「呆れてないって」
「嘘よ! 絶対、馬鹿にしてる……こんな約束をあの エロ カメラマンとしたわたしのこと、ゼッタイゼッタイッ馬鹿にしてるっ!!」
 頑なに言い張る彼女に、菫は微笑んだ。
 その目に浮かんだ悔し涙を拭って、困ったなとチラリとカメラを気にした。
「ホントにそんなこと思ってないから、朱美さん」
「なによ?」
 恨みがましく、睨む瞳には不安が行ったり来たり。
 ざわざわと曲線を菫の手のひらがなぞって、裾から白いシャツの中に滑りこむ。
「あんまり 可愛い 顔しないで、彼にそれは勿体無いよ」
「なっ……あ?」

 朱美の顔を隠すように触れるだけのキスをして、彼女の衣服の中では彼のエッチな指がブラのカップをめくってまだふにゃりとした尖った先を摘んでみせた。

 その手を背中に廻して、何事もなかったように朱美をナナメに傾けて見る。
「そういう は俺だけに見せて」
 真っ赤になった彼女の顔を間近にとらえて、額をくっつけると菫は――満足そうに、笑いかけた。


おわり。

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