「あ……あ、あん、や、ああー!」
鏡に手をついた朱美は、背後から貫かれてどうしようもない声をあげた。
ウェディング・ドレスはもはや、彼女に引っかかる程度にしか機能していない。
何度目か分からない絶頂に達して、空ろに鏡を見る。
半ば空いたままの唇と上気したピンク色の肌、ひくひくと小刻みに反応する身体。
立ち上る湯気。
ちゅっ、と首筋に菫がキスをして、鏡から彼女に微笑みかけた。
その手は彼女のこぼれ落ちた頂きと、広げられた足の付け根をいじって休まない。
(う、映ってるんですけど。菫さん、やらしいよ。手の動きが……)
鏡の中。
彼の手によってあらゆる形に変えられる胸のふくらみと、色づいた尖りが鷲づかみにされた指の間から覗く。そのさらに下肢〔した〕では茂みの中に分け入る彼のもう一方の手が蠢き……そして、繋がる彼自身が、見えた。
彼の動き以上に自身の反応がやらしくて、それに、また感じる。
「まだ、締めつけてる……そんなにイイ? 朱美が鏡に弱いなんて知らなかった」
「そ、そんなんじゃな……いやぁん!」
繋がったまま、奥をからかうように突つかれて朱美は悲鳴をあげる。
「も、もう無理だから! 許してよー」
ほとんど泣きが入った訴えに、くすくすと笑って菫は「わかったわかった」とようやく彼女を解放した。
乱れたウェディング・ドレスを注意深く確認して、「クリーニング行きだな」と冷静に判断する。
後始末をしつつ、朱美は菫のその言葉にショックを受けた。
「ウソー、やだやだ! 菫さん、こんなことしてたってバレたら クビ じゃないの?」
真剣に、心配する朱美をきょとんと見て、菫はぷくくと笑いを噛みしめる。
「大丈夫、その辺は適当にクリーニングに回しておくから。それより、問題は僕のクビなの? 朱美サン」
「え?」
「クビにならなかったら、ココでこんなことしてたってみんなにバレても君は 全然平気 ってコト?」
「……平気じゃないけど」
嫌でもない、ってコトかもしれない。
だって。
(――そうなれば、菫さんに横恋慕してくる彼女たちも、諦めるかもしれないじゃない?)
そんな浅はかな考えも浮かんで、朱美は自分でも驚いた。
こんなこと、口に出せるハズがない。
「十年目の逢瀬なのよ。……こーなるのは必然よね?」
朱美の苦し紛れに出された「らしくない」モゴモゴとした答えに、菫は不思議そうに首をかしげて見透かしたようにくすり、と微笑った。
*** ***
人のまばらとなった打ち上げ会場に、ようやく戻ってきた竜崎夫婦を陽平が手を振って出迎えた。
ニヤニヤと笑う彼は、腕に寝入ってしまった由貴を抱いて菫へと歩み寄った。
「よぅ、お二人さん。打ち上げはとうに締めちゃったゾ、このー」
と、拳を突きつける。
「スッキリした顔しやがって」
「お陰さまで」
にっこりと柔和に微笑んで、菫は陽平をねぎらった。
「悪かったな、水野」
「まあ、いいけど。元はといえば、俺が朱美さんに依頼したのが発端だしねえ? それより――」
くい、と会場の壁に並べられたソファを顎で示した。
「俺より、彼らの方が待ちくたびれたみたいだよ」
蒼馬と日向が肩を寄せ合ってぐっすりと眠るすぐ横で、一文字シスターズの面々も気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「遊びつかれた……って感じかな? 彼女たちも連日準備に忙しかったから」
「そのようだね」
くすくすと笑って、菫は彼女たちのそばに寄ると肩を揺すって呼び起こした。
It's あ ショウタイム!5 <・・・ 6(終) ・・・> あとがき。
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