『――だな。じゃ、作ろうか?』 彼のプロポーズの言葉は、さらりとした子作り宣言とピース。
異物感といまだ残る疼痛に朱美は、お腹を守るように撫〔な〕でてみる。 できているかは、分からない。 けれど、避妊はしなかった。作るための行為だったから……菫もそれを待っていたように朱美の「初めて」を強引に奪っていった。 ブラジャーを付け、ニットのセーターを頭からズボッと被った朱美は、ゴソゴソと身支度を整えて何事もなかったように装った。 「――あれ?」 濡れた髪にタオルを引っ掛けた菫が部屋に戻ってくると、彼女の姿に不思議そうに首を傾げた。 「服、着たんだ?」 「そりゃ、そうよ。菫さんの部屋から、乱れた格好で出ていくワケにいかないじゃない」 それでは、「やりました」と公言しているも同然になる。 頬を染めて、シャワーを浴びてきたばかりの菫を仰ぐと、彼はニヤニヤと笑っていた。 「バレると困るの? 朱美は……僕と、こういう関係だって知れわたるのは、イヤ?」 「イヤ、じゃないけど。恥ずかしいよ、そういうの」 ぷう、と頬を膨〔ふく〕らませて、朱美は睨む。 「なんで?」 まるで何でもないことのように訊きかえす菫に、朱美は自分が変なのかと言葉を詰まらせる。 よく、人から「変」と言われ慣れているだけに……否定しきれないトコロが苦しい。 でも。 「だ、だって。わたしたちがくにゅくにゅしたりにゃんにゃんしたりしているの、想像されちゃうのよ? そりゃあ、自意識過剰かもしれないけどさ」 真っ赤になって訴える朱美に、笑いながら菫が隣に座る。 先ほど二人で愛し合ったキルト・マットの上なだけに、朱美は緊張した面持ちで顔を上げた。 「爺様方にはそれくらい想像してもらわないと、困るだろ? 逆に」 「 え? 」 ポカン、とした彼女の顔がよほど可愛かったのか、キスをすると菫は深みにはまる前に唇を離した。 流石に、今日が「初めて」の彼女に二度目を強いることはできないし。 「え? じゃなくってさ。僕たちには「子ども」がいるコトになってるんだから」 ぱちくり、と瞬いた朱美の瞳に菫の色素の薄い瞳が映る。 「たぶん、コレで爺様方も認めざるを得ないはずだよ。僕たちのこと」 朱美は顔をしかめると、不安を口にする。 あれだけ攻勢の宗家三役のことだ。 「おろせ、とか言われたらどうするのよ?」 言われかねない言葉に、朱美は肩を震わせる。真実、それが怖かった。 「 大丈夫 」 やけに自信ありげな菫が震える朱美を抱き寄せた。 「それだけは、絶対に言わないから」
*** ***
次の日、茫然自失の死の淵から戻ってきた(らしい)しぶとい竜崎家宗家三役の面々は疲れた表情で朱美を床の間に通すと、対面に座ることを許した。
「朱美さん……」 少しやつれた顔で彼らは朱美を見据えると、はぁと息をつく。 「菫から聞いたのですが……したのですか?」 「本当に、そこまで関係が深まっているとは思わなかったものでしてね」 「そう……そこまで「使い」の力に目覚めているとは」 口々にブツブツと呟いて、首を振る。 「「「どうして、こんな娘に――」」」 と、最後はキレイにハモるあたり、朱美のこめかみがひくりと引きつった。 「こんな娘で悪かったわねっ! で? 一体、何が言いたいのよ!」 座布団に正座をした朱美は、憮然と腕を組むとギッと睨む。 無遠慮な彼らの眼差しがなめるように彼女を眺め、やはりはぁと息をつく。 「胸もない」 「色気もない」 「その上、ガサツときておりますのに」 首をふりふり。 「「「ねえ?」」」 だーっと居切り立つと、朱美はダンと足を踏み出した。 「 わたしに訊くなぁっ! 」 朱美のそんな様子に臆することもなく、三人の老人は逆にマジマジとその様子を眺めては三度目のため息をついた。 「まったくもって、菫の趣味は理解できませんが」 「本当に」 「どういう趣味ですか? コレは」 つくづくとそんなことを口にしては指まで指〔さ〕して首を振り、ふたたびハモりそうになったトコロで襖〔ふすま〕が予告なく開いた。
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