膝を折って座していたのは、竜崎家の中でも色素が薄い寡黙な長身の青年だった。 襖を閉じると、立ち上がる。 「失礼なコトは言わないでください、爺様方」
「菫」 「何用です?」 「貴方らしくもない」 見咎める厳格な眼差し三対を菫は無視して中に入ってきた。 「私は、ただ認めていただきに来ただけです。爺様方が何を言おうと、もう解かってらっしゃるでしょう?」 頭を痛めるように目を閉じて、和服の老人の一人が言った。 「ええ、まあ」 そして、もう一人もやれやれと肩を竦〔すく〕めて続く。 「「使い」の能力は疑いようがない」 最後の一人が、まっすぐに朱美をとらえて答えた。 「菫にそこまでのコントロールを覚えさせたのは、流石ですよ。朱美さん」
「 はあ? 」
間抜けに声を上げたのは、初めて三役ジジイトリオに褒められた(らしい)朱美だった。 自分の傍らまでやってきた菫を問うように仰ぐと、 「一体、何の話なのよ? だから」 憮然とした表情のままなのは、どうも合点がいかないせいらしい。 隣に菫が座るのを見て、さらに迫った。 「ねえ? 何を褒められてるの? わたし」 「そりゃあ、もちろん」 無邪気に笑う菫の笑顔に、朱美は反射的に身を引いた。 しかし、そういう時の彼からは逃れられた試しがない。 「うひゃっ!」 シッカリと首筋にキスされて、その感触に背筋をのけ反らせると飛びすさった。 「な、何するのよっ!」 「君の才能を褒めてるんだよ、その天性の 私を 惑わせる才能に」 くすりと笑う菫に、呆れたような三役ジジイの声がハモった。 「これ。子どものいる身でそのような暴れ方をするでありません。朱美さん」 「 ! 」 これには、パクパクと口を動かすしかない。 「竜崎家の男と交わるというのは、それだけで「使い」として認めねばならないということ」 「あまつさえ、子どもまで授かるとは私どもが我を通すワケにもいかない事態です」 「分かりますね?」 漆塗りのテーブルの対岸に座した三役トリオの切羽詰った表情に、さらに言葉を失うと朱美は途方に暮れて菫を見た。 そして。 「 ―――」 今日、何度目だろうという疑問を呈した。 「だから。何の話なのよ?」 おや、と目を見開いて菫はさも当然と口にした。 「まだ分からないの?」 と、少し真面目になる。 眉間にシワをためた朱美を見ると、静かに言った。 「私と結婚してほしい、って話だよ」と。
竜崎家の裏事情。5 <・・・ 6(終) ・・・> あとがき。
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