『大事な話があるんだ』
そう言って、サークルの打ち上げを一次会で辞退した菫と朱美は、駅前にあるファースト・フード店に入って向かい合っていた。 夜の九時というファースト・フード店にしては少し遅い時間の店内は、それでも十分に騒がしかった。 今日が、日曜前というのも理由かもしれない。 仕事帰りのOLや塾帰りの学生、人待ちの青年などなど。 とにかく、カップルなんていうのはめずらしい客ではない。 朱美は、菫の言葉に思わず口にしていたジュースのストローをはなしてポカン、と凝視する。 ホット・コーヒーに口をつける菫は、それほど「大事」な話をしたという様子はないのだが――しかし、口にしたのは確かに「大事」なことだった。 朱美は、頬が熱くなるのを感じた。 「菫さんの本宅に?」 「うん」 こくん、と頷く菫は首を斜めにして朱美の答えを待つ。 (ソレって、つまり……) 朱美は自分の考えに「うかーっ」と真っ赤になった。 (わ、わたしったら、そんなの先走りすぎよ。だって、まだ学生だし! ただ顔が見たいだけかもしれないじゃない……菫さんの相手っていうのを。菫さんの一族は特殊だし……って、あ!) 「……菫さん?」 「うん。だから、爺様方が見たいんだってさ。君の「使い」を」 「やっぱりソレなの? 目的は」 菫はふと、朱美をマジマジと眺めると問い返してきた。 「面倒だけど仕方ないから――って、他に「目的」ってある?」 「いいけど、別に」 ぶぅ、とふたたびストローをくわえた朱美はブクブクと泡を出す。 「行けばいいんでしょ? 高野山市にあるっていうあなたの本宅まで」 「そう。冬期休暇中2週間くらい、かな」 すんなりと彼が口にした言葉に、朱美は愕然と目を丸くする。 「に、にしゅうかんん?!」 「勿論、「泊まり」だから」 「……ぁあ、そうなんだ?」 にっこりと微笑んだ菫に、朱美はため息をつくしかなかった。 (だって、この瞳を見たら断れないんだから……しょうがないじゃないよ?) 「まあ、覚悟しといてよ」 と。 静かな菫の言葉の真意は、本宅に着いてからようやく朱美の知るところとなる――。
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今の今まで、彼とこうなる余裕など彼女には考えることすらできなかった。 宗家三役と呼ばれる「ジジイトリオ」にアレやコレやと世話を焼かされ、しかも悔しいことにまともにはこなせない自分がいる。 彼と話すこと自体、ここではとても難しいコトだった。 しかし。 その三役も「しばらくは」、少なくとも「今は」魂が抜けているに違いない。 彼の言葉は、年老いた三役の心臓を止めかねない爆弾だった。
『――彼女のお腹にはすでに 私の 子どもがいますから』 彼の部屋に誘いこまれ、ふたたび狂おしい愛撫に責められた彼女は何とか意識を手中にしようと、言葉を口にする。 「ね、え?」 ニットのセーターを剥ぎ、ブラジャーをものぞかれた身体にキスを落としていた彼は、彼女の胸のひとつを手にして片方の天辺をいとおしく口にふくむ。 舌で突き、強く吸い、時に少しいたぶった。 ビクビクと仰け反る彼女の身体、泳ぐようなしなやかな動き。 何もかもが、彼を誘う。 「きて」と、彼女すべてが訴えているようだった。 自然、愛撫する指の動きにも力が入った。硬くなった初々しい感触が興奮を誘うのだから、どうしようもない。 「ぅん、ふぅっ! ぁぁんっ」 立って抱き合っていた彼女の身体は、ガクガクと震えると胸だけの刺激で脱力した。 「朱美、イッたの?」 「わ、わかんない……や、なに?!」 予告もなしに、畳の上に敷かれたキルト・マットに転がされ彼女は戸惑った。 次の彼の行動にさらに、激しい抵抗をする。 (や、ソコは……) Gパンのベルトを外され、下着の中に彼の手がのびてくる。 「ダメぇ!」 「なんで?」 「き、訊かないでよっ。解かってるクセにっ!!」 すでに、彼の指は彼女の股の付け根を直〔じか〕に触っている。 「ぅあん、はぁんん……なに、コレぇ?」 二、三度彼の低温の指先が彼女の茂みの奥の溝をなぞったかと思うと、ぬるりとすでに十分に潤った場所から入ってくる。 人差し指がひとつ――。 「………あっ」 「朱美、濡れすぎじゃない? はじめてだろ?」 小振りな胸の頂点が刺激に反応するように上下に揺れていた。 彼女は真っ赤になって、それでも腰の動きはどうしようもないほどに制御がきかない。 (なに、わたしじゃない誰かがいるみたい……) 彼の顔の前に腰を差し出すみたいに動かして、息が乱れる。 「す、みれさんが……上手すぎる、のよ」 それだけ言うのが、やっとだった。 悔しいけど。
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