「センパイを酔い潰そう 大 作戦」は攻を奏していた。ある意味で。
しかし、何故か朱美までもがその策に乗っているあたり……彼女らしいというか。 「ちょっと、会沢さん。大丈夫?」 「なーにがですかっ?」 グラスを勢いよくテーブルに叩きつけると、キッと睨んだ。 すっかりと目の据わった朱美に、しこたま酒の入っている先輩は逆に酔いが冷めてきたらしく呆れたように言った。 「どうして、飲んでないあなたが酔うのよ」 「ふーんだ」 ツーンと不機嫌にそっぽを向くと、一口も酒を口にしていないハズの一回生は頬を上気させて先輩に愚痴をこぼした。 「彼」のことで。 「菫さんなんて女の子にはめっぽう弱いんだから。センパイ、知ってます? 「女好き」なんですよ。すんごいっ! そのせいでわたしって者がありながら、モテちゃうしさっ――ねえ、コレどう思います?!」 「 ……… 」 (……ソレを、わたしに訊かないでよ) と、思いはするものの。 そのノン・アルコール(のハズ)のカクテルで管を巻く後輩はどこか憎めなかった。いや、憎めないというよりは、面白いというか。 「センパイ〜、どうして菫さんがいいんですか?」 勢いに任せて訊きながら、目は不安に揺れている。 そのあまりの素直さに、奇術サークルのショーレディを勤める斎木亜矢〔さいき あや〕は思わずくすくすと笑ってしまった。 (この娘の「術中」にはまってしまったわね……参っちゃうな) と。 短い黒髪をかきあげると、戦意を失った顔で微笑んだ。 「さあ? どこだったかしら。忘れちゃったわ」
ふいに立ち上がった頼りない朱美を支えたのは、傍観を決めていた菫だった。 「朱美、帰るよ」 「へ、なーんで?」 頬を朱色に染めて顔を上げる朱美は、本気で酔っているように見える。 はー、と息をつくと、菫はジッと朱美を見つめおもむろに唇を塞いだ。
「 ! 」 んー、と塞がれてジタバタと抗う朱美に、唇を離した菫は一言。 「酔い、冷めた?」 「冷メマシタ!」 はーはー、と息を乱した朱美ににっこりと微笑んで、「じゃ、帰ろうか?」と肩を押す。 「だから、なんで?!」 公衆の面前でキスをかまされた朱美は照れ隠しに、むぅっと唇をすぼめる。 「朱美が酔ってるから」 「もう酔ってないってばっ!」 「と、もう一つ」 色素の薄い目だけで恥ずかしそうに頬を染める朱美を捉えると、真面目に言った。 「大事な話があるんだ」と。
*** ***
暖色のニットのセーターから露〔あらわ〕な彼女の肩は、次第に熱を帯びて紅潮した。 裾から背中に廻っていた彼の腕が前に伸びてくると、高い声が彼女の口から不意に出そうになった。 「……ぁ、っん」 唇を噛んで、彼の首にしがみつくと苦しそうに首を振る。 廊下の壁に背中をつけた彼女には、そこしか頼る場所がなかった。 密着度がさらに高くなると、セーターの中に入った彼の指は彼女のブラジャーを簡単に押し上げて、直接膨らみに触れてくる。冷たいその感触に、知らず頬が熱くなる。 「す、みれさ……」 流石に、ここでするのかと思うと不安になった。 彼の家の本宅……その大きな家の廊下のど真ん中だ。 今でこそ往来する人はいなかったが、この一枚壁を隔てた向こうには竜崎家宗家の三役と呼ばれるご老人が顔を揃えている。そんな人目のある際〔きわ〕どい場所で、まさかコトをすませてしまえるモノなのかどうか。 「なに?」 肩にかかる程度の彼女の髪から首筋、肩、鎖骨とキスを落としていた彼が、上目遣いで問い返した。
まさか、本当にここで? そんな不安が現実味を帯びてくると、彼女はどうしようもなくいたたまれない気持ちになった。 「やぁっ」 Gパンの上から足の付け根に彼の指を感じて、初めて嫌だと思う。 「ヤダ!」 ドンドンと彼の胸を押して、首を振る。 「ここじゃ、やだっ。菫さん」 「どうして?」 「 ! 」 くすくすと笑う彼の顔をみて、からかわれたことに気づいたが、もうあとには引けなかった。 悔し紛れに口をへの字に曲げて、言う。 「わたし、はじめてなんだから……こんなところじゃヤダってばっ!」 真っ赤になって睨んでくる彼女は、恥ずかしさに怒ってはいたが彼を「拒否」していなかった。 それが解かって、彼は嬉しくて、さらに彼女の胸への愛撫を深める。 細身の彼女の小さな胸は、彼の手にすっぽりとはまるほどの大きさでちょうどいい。初めての刺激に、固くなった天辺を片方摘みあげるとピクン、と彼女の背中がひくついた。 「――ッひゃ! んん」 さらにさらに赤くなった赤鬼状態の彼女は、息をはぁはぁと乱しながら懸命に耐えようとする。 涙目で彼を睨むと、吼〔ほ〕える。 「や、ヤダって言ってるのにッ!」 「ああ、解かってる。可愛くて、つい、ね?」 「ね、じゃなくって!!」 「ごめん。じゃ、いこっか? 歩ける?」 「 へ? 」 彼女は束縛の解けた瞬間に、足腰に力が入らないことを自覚した。 彼へとしなだれかかりながら……やっぱり、どうしてもこうなったことに疑問を抱かずにはおれなかった。
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