「は?」
どういう意味よ? と朱美は眉を寄せた。
「こっちの話」
と、にっこりと笑って、こそりと耳打ちした。
「それより、朱美。そんな格好でいたら、また歯止めがきかなくなるかもよ?」
「 ?! 」
わが身をふり返ってみれば、確かに一糸纏わぬ「あられ」もない姿。
「それとも、やっぱり 俺を 誘ってるの?」
「いいよ、する?」と囁かれるや、朱美は超特急で飛び退り、脱ぎ散らかった下着と寝巻きをかき集めて素早く身に着けた。
布団に入り込むと、「おやすみ!」と宣言して、あとは知らぬ存ぜぬの無反応を決め込んだ。
くすくすと笑う、背後の菫の様子にからかわれたのだと気づいたが――。
アッという間に睡魔に襲われ、怒る気力もなくなった。
「 おやすみ 」
電気を消して布団に入ってくる彼を背中に感じて、抱き寄せられ……一瞬、身を強張らせたが、それ以上はなかったのでホッとする。
身を寄せ合うと、温かな人肌に安らいだ。
それが、愛する人だというだけでとても幸せな気分になる。
*** ***
朝。
ピンポーン、と家の呼び鈴が鳴った。
「うー?」
と、朱美は寝返りをうつと……目を開けて高くなった日差しを背にした夫を見つける。
彼はすっかりと身支度を整えていた。というか、たぶんかなり前から起きていて、本来なら朱美がするべき朝の用事を済ませていたにちがいない。
(でなかったら、許さないし!)
色素の薄い髪が金色に輝いて、キレイなアメジストの眼差しが微笑んだ。
朱美の瞼にキスを落として、「ゆっくり起きてくればいいよ」と優しいことを当たり前のように口にする。
「うん」
まだちょっと余韻の残った身体に朱美は息をついて、それでも彼のこの眼差しには弱いのだ。何でも許してしまいそう……ううん、ホントは全部許してる。
でもね?
「 菫さんのバカー! 」
階段を駆け下りると、フラフラと足をもたつかせながら朱美は、それでも乱暴にリビングの扉を開けた。
「ハイネックでも隠れないよ! コレ!!」
と、昨夜の問題にさらなる問題をくわえて再燃させた。
けれど。
「 お邪魔しています 」
リビングの接客用のソファに座った……見知らぬ客人は、首筋を指差したまま固まっている朱美を見上げると、何事もなかったかのように立ち上がって頭を下げた。
その唇は、いささか笑いを含んでいる。
「竜崎朱美さん、ですね?」
初めてお目にかかります、と彼は朱美に名刺を手渡すと、そのまま動く気配のない彼女の指に唇を寄せた。
「私は、比奈東吾……カメラマンをしています」
ファインダーの向こう側。5 <・・・ 6(終) ・・・> あとがき。
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