「か、母さん?」
不必要にべったりとくっついてくる母、朱美に蒼馬が困惑したように顔を上げた。
「なんかあった?」
「べつにー」
と、息子を抱きしめて「はい、アーン」とか言って、旅館で出された料理を運んでくる。
確かに料理はおいしい。牛肉のしゃぶしゃぶはゴマだれと相性がよくて、ついつい箸がすすむ。
が。
「だー! もうっ、どうせ父さんのせいだろっ!!」
頭を抱えて顔をしかめる長男に、微笑ましいとばかりに朱美が「蒼馬は可愛いのにねー」と聞き捨てならないことを告げる。
「可愛いって言うな、可愛いって……一人で食べれるし!」
がつがつ、と母の箸を無視して食べはじめた彼に、朱美は仕方なく行き場を失った箸を自分の口に運んだ。
すると、浴衣姿の朱美の袖を誰かが引っ張る。
「ん?」
「まーま、ユキもユキも〜」
「由貴ちゃーん、そうねそうね。じゃあ、お味噌汁の麩〔ふ〕あげちゃう……フッフしてね、アーン」
「ふっふ、あーん」
ぱくり、と食べてよちよち歩きの彼は朱美にギュッと抱きつきご満悦にもぐもぐと咀嚼した。
ザザン、ザザン。
夜の海が鳴いている。
旅館の部屋には、内湯があって。しかも、露天風呂だった。
遊び疲れた子供たちが早い時間に寝静まると、朱美は掛け湯も底々に湯船に飛びこんだ。白濁したにごり湯が大きくうねって、岩肌を流れる。
「んー、気持ちいい」
ザブザブ、と縁に腕をかけ足をバタつかせると、あとから入ってきた菫がくすくすと笑った。
「子供みたいなことして」
「………」
背中を向けたまま答えない朱美に、彼は「怒ってる?」と気づいてはいるが訊いた。
「……怒ってますよー、トーゼンじゃないさ!」
フン、と唇を尖らせて朱美は後ろをふり返ると、湯船から立ち上がった。
濡れそぼった生まれたまんまの姿を隠す気もなく晒して……腰に手をやり胸を反らせると、やはり裸の彼を指差した。
一応、彼のほうは腰にタオルを巻いていたが。
「蒼馬にヤキモチ焼くなんて 子供 じゃないんだから。あのね、分かってる? 菫さん」
「なに?」
朱美のすぐそばまでやってきて、菫は首を傾げた。
「 わたしは、菫さんのものなのよ? 」
「うん」
頷いて、菫は朱美の裸の体を確かめるように強い力で抱きしめた。
P-kan! 常夏 ココナッツ。3 <・・・ 4 ・・・> P-kan! 常夏 ココナッツ。5
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