の目覚め。5-4。「罪のことば」4


〜甘品高校シリーズ5〜
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 抵抗を続けていた奈菜は、俺の首に腕をかけてきた。
 小柄で童顔の彼女なのに、こういう時はドキリとするほど色っぽいんだ。なんでなんだろう?
 目がトロンと薄く開いて、潤んで見えるからか?
 それとも、俺が欲情してるせいか……どっちでもいい……。
 絡ませていた舌をゆっくりと放して、彼女の唇から少しだけ離れる。
 やらしい唾液の糸が切れて、奈菜の唇が濡れていた。
 額同士をくっつけて、見交わすと恥ずかしそうに俯〔うつむ〕いた。
 キスの余韻か、奈菜の頬はうっすらと上気していた。

「遥くんは――「 怪盗 」なの?」

 なんて、ものすごい 爆弾発言 に俺は一瞬呼吸するのを忘れた。



 一気に覚〔さ〕めた。奈菜を机の上に押し倒した格好で、止まる。
「は?」
「あ、あれ? わたし、変なこと言った?」
 ぼんやりとした様子で奈菜はうろたえ、ビックリしたように俺を見上げる。
 俺の方が、奈菜より少し背が高い……とは言っても、間近なんだな。コレが。
 目と目が、すぐそこにある。互いの息遣いが、頬にかかった。

「俺が、「怪盗」って……どういう話?」
 ビックリしたいのは俺の方、呆然とした自分の声が響く。

「 ええっ! 」
 口にした本人に、そこまでビビられるのもビックリだな。
 どうやら、奈菜も深く考えて口にしたワケではないらしい。が、核心部分なんだよな。実際。
(――奈菜は、案外鋭いし)
「な、なんでだろ。あ、アレかな。白石さん、「怪盗」に入れこんでたから……遥くんにキスしたって聞いて、繋がったのかも」
 白石……元凶はおまえか。
「ちがうちがう、白石は俺が「怪盗」でもナンでもいいんだ。もちろん、俺を「好き」っていうのもない」
 疑わしそうな奈菜の眼差しに、俺は「本当」のような嘘をつく。
 白石が俺を「怪盗」でもナンでもいい、と思っているのは本当だ。それに、俺に好意を寄せてないのも紛いもない事実。
「なんで? 白石さん、遥くんに 熱烈な キスしたって聞いたよ?」

「 ……… 」

 あ、い、つ、ら〜! やっぱりかっ!!
 と、俺は呻いた。
「奈菜、どうでもいいがアイツらの言葉を鵜呑みにするな。熱烈なキスなんか、するかよ」
「……そうなの?」
 よく分からない、とでも言うように首をかしげて「でも、キスはしたんだよね?」と追求してくる。
 そーいうとこ、女だよな。
 まあ、無視されるよりはずっといいか。弁解もできるし。
「……キスっていうか。白石のややこしい性格だな、アレは」
「どういうこと?」
「つまり、本命は じゃないんだ」
「え? ……ええっ?! ってコトは、本命はやっぱり「怪盗」?」
 だーかーらー、そこから離れろよ。少しは……俺の心臓に悪いじゃねーか。
「そうじゃなくて。「怪盗」も白石の方便だよ、本命が鈍いらしくて……俺から言わせれば、白石もたいがい素直じゃねーけど……そいつへの面当てみたいなモンだよ」

「なんか、いいように誤魔化されてる感じ」

 唇を尖らせて奈菜は呟くと、じとーんと俺をまっすぐに睨む。
 額と額を寄せ合って、ふわりと前髪が触れ合う。
 うっすらと唇を重ねて、パチパチと奈菜は瞬いた。そして、俺の心を見透かしたように ポツリ と「卑怯モノ」と告げる。
 いや、奈菜を誤魔化しているつもりはない。キスの件に関しては――さ。
 でも。

「本当だって、嘘じゃない。アレは キス なんかじゃないし、俺は「 怪盗 」じゃないんだ――」

 コレは、明らかに誤魔化しか? だよな。


   *** ***


 間近で見た、彼の顔に――嘘、と奈菜は思った。
 キス、のことじゃなくて……「怪盗」のこと。
 遥くんは 明らかに 嘘をついている。

「 遥くんが、「怪盗」? 」

 確かめたワケじゃないけど、そうとしか考えられない。
 遥くんが怪盗でも、嫌いになるワケじゃない。嘘をついてても構わない。わたしはもう、それくらい 好き だから。
 でも。
 じゃあ、遥くんはどうしてわたしと付き合ってるの?
 わたしが、怪盗を追っかけ回してたから?
(そうかも……)
 思い至って、首をふる。ううん、大丈夫。遥くんはそんな器用な男〔ひと〕じゃない。
「そうだよね? 遥くん」
 すこし怖くて。
 わたしは夏の薄い布団の中で、ギュッと目をつぶった。

 あの石。

 ――どこにいったの?



 テスト休みに入って、時々遥くんとデート……みたいなことをしたけど、訊けなかった。
 相変わらず遥くんは「変」だったし、わたしもなんだかぎこちなくなってしまった。たぶん、お互いに隠していることがあるからだよね?
 わたしは。
 訊く「きっかけ」がなくてヤキモキしているのか、ホッとしているのか、分からない。
 だから。
 終業式の前日の夜に「トコロテンの怪盗」から予告状が来たって、聞いたとき……わたしは、とうとう訊かなくちゃと思った。

 そして、すべてに答えて欲しい。

 彼の気持ちも、言葉も、あなたのことをもっと信じたいから。


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