の目覚め。5-2。「罪のことば」2


〜甘品高校シリーズ5〜
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 半ば、泣きそうな心境の俺に姉貴はさらに、ぶちかます。
「わたしは、いつ明かしてもよかったのよ。遥がいいんだったら……だって、お姉ちゃんだし」
(……「お姉ちゃん」はいいから)
 つーか、普通 可愛い弟 にこんな仕打ちをするか? ぜってーしねえからっ!
 思わず、強い否定の反語使用だよ。悪かったな!!
 俺は、どう返していいのか理解に苦しんで、とりあえず「どういう意味だよ」と呟いた。
「これでも、遥のこと信用してるのよ。だから、黙ってるのは奈菜ちゃんのためだと思ったの」
「……奈菜のため?」
 唇をなぞる仕草をして姉貴は考え、俺の方を意味深に見つめた。
「だって、知って黙っていたら…… 共犯 よ。そんなことに 彼女 を巻きこむワケにはいかないでしょ?」
 姉貴の言葉は、去ったと思った俺の苦悩に新たな問題を提示して……冷ややかに響いた。

「 そんなのとっくに気づいてると思ってたわ。遥……バカね 」

(……断定するなよ)
 俺は、ただ力なく黙って 肯定 するしかなかったんだ。


   *** ***


 遥くんがおかしいと、思ったのはふとした瞬間だった。
( あれ? )
 違和感、なぜか目をそらされたような気がした。
 そりゃあ、遥くんは照れ屋なトコロがあるから……時々、あるんだけど。
 それでも、わたしよりも大胆っていうか。人前でキスくらい平気でするタイプの男の子だから、なんだかおかしかった。
「どうして?」
 って、べつに人前でキスして欲しかったってワケではなくて、ですねっ!
 なんで、ですます調になってるんだ?! わたしっ。
 真っ赤。
 絶対、わたしは今、真っ赤だ。断言できる。チカラいっぱい!!
 目をそらしたままの、遥くんは少したじろいだ。
 それも、なんか変!
 いつもだったら、絶対! 笑ってからかうトコロなのに。
 なんで、そんなに優しく抱きしめるのよ。
「ど、どうしたの?!」
 挙動不審すぎる彼の態度に、わたしはわたしを抱く彼の腕にしがみつき怖くなった。
 なんだか、すっごくやましいことでもあるんじゃないかって思った。

「べつに、なんでもないよ」

 くぐもったその声が怪しいですよ、とてつもなく。
 ぐぐっ!
 追求してやる。
「……嘘。絶対、何か隠してる」
 それは、恋する乙女の確信。
 いや、わたしにも隠し事はあるんだけど……そんなのは二の次ってコトで。
 甘いキスで、簡単に騙されてなんかあげないからねっ。



「浮気じゃないの?」
 って、言ったのは夏風邪から復帰した白石さんだった。
「えーっ?! 飛木くんが? ありえなーい」
 その、自信はどこから来るの……という美夜ちゃんのやけにキッパリとした言い方に、わたしは(うーん、浮気はないか)と考える。
 べつに美夜ちゃんの言葉が決め手ではない。一番、疑わしいと思っていた白石さんが平然としているからだ。
 でも。
 じゃあ、何を隠しているのだろう?
 ううん、その疑惑は最初からあった。遥くんは……たぶん、本当のことをわたしに言ってくれてない。
 そんな気がする。
「ねえ、ナナちゃん。それって許せないこと?」
 美夜ちゃんが訊いてくる。
「え?」
「だからあ! 隠し事をすること……って、そんなにイケナイこと?」
「………」
 わからない。
 わたしにだって、遥くんに言えないでいることはあるけど。
 許せないって、いうことではなくて。
 わたしはなんだか、自覚してしまった。
「許せないって言うか、寂しいんだよね」
 口にしたら、美夜ちゃんが仰け反って、白石さんが呆れたように頬杖をついて言った。
「それって、惚気〔のろけ〕よね。完璧に」
 ……仰る通りです。

「 だって、わたしは遥くんが好きなんだもん 」

「くあっ!」
 と、奇声を上げて美夜ちゃんは椅子に崩れ落ちた。
 ごめん、美夜ちゃん。
 思わず、開き直っちゃった……。
 白石さんは、そんなわたしを眺めて、「あーあ」とアンニュイな色気のある眼差しを向けてきた。
 美人な子がすると、同性でもドキリとするわ。
「いいわね、井元さん。わたしには ソレ ができないのよね」
「はあ?」
 って。
 どういう意味デスカ? お嬢さまっ。
「 羨ましいわ 」
 にこり、と笑いかけられて、(わたしは、そんな絵になる アナタ が羨ましいですっ。白石さん!)と思わず 心の中で 命一杯主張しておきましたとも。とほほ。


 それから――。
 「遥くんファンクラブ」のみなさんが遥くんと白石さんの ○○事件(←ココ) をご丁寧にいち早く、彼女であるわたしに伝えに来たのは、夏休み直前の期末試験最終日のことだった。

 ココの部分! 思わず、伏字にしちゃったのは心の動揺のなせる業ねっ。


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