( え? )
抱きしめられて、キスをされて……それで、終わりじゃないの?
ねえ、チャイム鳴ったんだよ? 遥くん。
ビクッ。
と、わたしの体は硬直した。
だって……だって……だってよ?
……あの。
ちょっと、落ち着いてみていいですか。
制服のブラウスの裾をスカートから引っ張り出して、遥くんの手だと思うんだけど……ちょっと冷たい感触がおなかの横あたりの肌を撫でてるの。
「ん……っは! んんっ」
ただ重なるだけじゃない、キス。
口の中に遥くんの舌が入ってきて、舐められる。
ゾクッ、とした。
(なに? いまの――)
どうしようって思うのに、体は思うように動かなくて……ギュッって彼の首にしがみつく。
だから、密着してどうするのよ……。
でも、だって、気持ちいいんだもん。
遥くんの体温が。
わたしの体はもう、糸の切れた凧みたいに自由がきかなくて、カシャンとフェンスに背中がぶつかった。
目と目が合ったら、遥くんは男の人だった。
「 奈菜 」
遥くんの手のひらが、わたしの胸にかかる。
「やっ」
急に恥ずかしくなって、わたしはボタンが外されかけたブラウスを押さえた。
「いや?」
いや、あの……そんなことを改めて真剣に訊かれても、ですね……困りますが。
正直、屋上で コレ 以上は嫌です。
コクン、と頷いたら、遥くんはやめてくれた。
案外、紳士なんですね。よかった。
わたしがホッ、としたのも束の間。
「じゃあ、さ。んー……どこだったら、いい?」
ガシャン、思いっきりフェンスに背中をぶつけて、派手な音が響く。
「え……え? どこって」
は、遥くん……それは、あの……ねえ?
「俺の部屋とか、嫌?」
「………」
今日はとっても空が青いです。
雲も、もこもこ白くて可愛い形……少し風はきついけど、ぽかぽかと暖かな午後の日差しが気持ちよかったり。
そして、今は6限目の真っ最中――。
「 嫌、じゃないです 」
ついに言ってしまいました。
コレって、つまりオッケーしちゃったってコト……なのかな。
*** ***
金曜日。
運動部からの助っ人依頼はすべて断り、部活を早めに切りあげて、俺と奈菜は部室を出た。
「仕事を片付けたらすぐに帰るから……ちょっと待たせちゃうけど、遥の相手でもしておいてくれる?」
そう言って、姉貴は無表情にお願いポーズを奈菜に向けた。
「……はい」
奈菜はちょっと緊張した顔で俺を見て、俯く。
その仕草が、色っぽい……ような気がする。
「 遥 」
「なに? 姉貴」
「遅くなるから、買い物だけお願いね」
「はいはい」
渡された買い物リストをサッと眺め、ポケットに詰める。
「じゃ、お先に」
「失礼します」
ぺこり、と頭を下げる奈菜に雅弘が「はいよ」と手を挙げ、白石が「バイバイ」と言った。
ホラ、見ろ。
奈菜の心配は、まったくの見当違いだ。
白石の俺に対する態度は、クラスメートのそれとしか思えない。
俺としては、どっちでもいいやって感じだけど。
マンションのある、所天町のスーパー「ムーンプラザ」に寄って、頼まれた食材を買う。
「昆布とタケノコと薄口醤油……で、絹ごし豆腐に本日の魚とキノコ」
ざくざくとカゴに入れていると、付き合ってくれている奈菜がびっくりしたようにこっちを見ていた。
まあ、こういう買い物に慣れているっていうのも、普通の男子高校生だったらめずらしいのかも。
「そんな一生懸命見なくても、別人じゃないよ?」
「う。わかってるもん……伶先輩と二人暮らしだって、聞いたことあるし……だから、慣れてるんだよね?」
牛乳が特売で135円だったから、二本まとめてカゴの中に入れておく。
「そうだな、普通よりは……」
精算を終えて袋に入れると、スーパーを出る。
ちょっと買いすぎたかな……と考えていたら、彼女が袖を引っ張った。
「一個、持つよ。遥くん」
「いいって」
「だって――」
恥ずかしそうに奈菜は口を閉ざした。
そういう態度をとられると気になるじゃん。
「だって? なに?」
うー、と低く唸った。
「手」
「手?」
キッ、と睨む奈菜は頬を紅潮させて言った。
「遥くんと手、繋ぎたいからに決まってるでしょ! チビっ」
まるで、 喧嘩 を売られているみたいだが……一応、彼女なりの照れ隠しなのだ。
ぷっ、と吹きだしそうになって、堪える。
「わ、悪い。奈菜、真っ赤なんだけど?」
「うるさいうるさいうるさいっ」
二人、買い物袋を手に持って、手を繋いで帰った。
マンションに上がって、家の中に入るとまずは台所に行って、テーブルの上に買い物袋を置いた。
とりあえず、冷蔵庫に入れるべきモノは入れて……ほかは、テーブルの上に広げておく。
「奈菜、俺の部屋そっちだから」
正確には、姉貴との共同スペースなのだが、今回はそういうことにしてもらっている。
「あ。うん……」
頷くと、そろそろと閉められた扉の方に行き、ゆっくりと開ける。
その様子が可愛くて、俺は思わず頬をゆるめた。
なんか、俺……罠を仕掛けて女の子を騙してる犯罪者みたいだ。
好きな女の子を騙してる――たぶん、いま、俺の表情は固くなった。
お盆にお茶を淹れた湯のみをのせて入ると、奈菜はちょこんと座布団に座っていた。
「なんか、借りてきた猫みたいだ」
って笑ったら、俺を睨んで俯く。
「だって……わたし。遥くんのこと――」
その目がすがるような眼差しだったから、キスをした。
「知ってる」
絨毯に押し倒して、奈菜は俺を仰いでいた。
「遥くん、わたしね……ビックリするくらいあなたのこと、好きみたい」
「 好きみたい? 」
そういうトコロが、彼女らしいと思う。
緊張が少しでもほぐれるようにと、いつものように笑ってみる。
ああ、でも、ちょっと笑いすぎ?
「なによー」と不機嫌に応じる奈菜のブレザーとブラウスの前を開いて、キャミソールをたくし上げるとフロント・ホックのブラが見えて、彼女のささやかなふくらみが目に入った。
「……あの」
奈菜は、手で胸を隠して、うかがうように俺を見る。
「し、知ってると思うけどわたし、ムネ、ないからね」
俺は、彼女の自分の胸を隠している手を取って、脇に固定した。
「だから、俺が大きくしてやるって、前に言わなかった?」
「あ。うん、聞いたけど……あれ、ホンキ? やぁっ」
ホックを外して、直に触れると止まらなかった。
確かに大きくはないけど、手にしたそれはやわらかくて眩暈がする。
触っても触っても、足りない。
「……ッ」
奈菜の軽く開いた唇に、自分の唇を重ねて……スカートに手を伸ばした。
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