の目覚め。4-1。「恋すハート」1


〜甘品高校シリーズ4〜
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 新学期、と言えば。
 新しいクラス。
 新しい先生。
 新しい仲間。
 新しい友だち。

 新学期早々に知り合った彼女の名前は、白石清子〔しらいし さやこ〕さんと言って、2年2組の隣のクラス。
 で、案外親しみやすい美少女さんで、昼休みはわたしの1組に来てお昼を食べていくの。
 なんでかな? って思うけど。
「怪盗について、色々教えてほしいから」
 って、あの綺麗な顔で言われるとそれ以上は追求できなかった。
 まあ、べつにいいんだけど。
 でも、……いきなりのその ぶっ飛んだ質問 はどうかと思うの、白石さん。

「え、エッチ?」

 わたしの頭を、いま、星がチカチカと舞っています。
 ああっ、どうしてみんなして! そんな興味津々って顔してるんですかっ。
 み。みんな、って言っても白石さんと美夜ちゃんだけだけど……うん。
 それが、不幸中の幸いかも。
 こんなことアイツに聞かれたら、絶対まともに顔なんて見れないから!

「そう、だって井元さんと飛木くんって付き合ってるんでしょ?」

 そんな、冷静に返されると逆にこっちが熱くなる……美夜ちゃんも嬉々とした目で見ないで。
 本当に、困るから。
「う、うん。まあ……一応」
 わたしと遥くんは、確かにクリスマス・イブから付き合いだした。
 でも、「エッチをしたか?」と訊かれて、したと答えられる仲じゃない。つーか、たとえ してた としても答えられるワケがないし。
「で、どうなの?」
 あうあう。
 ど。どうしても、答えなくちゃダメですか?
 白石さんは、目で訴えてくる。静かなのに、有無を言わせない眼差しに逃げ場はない。
 ううっ……美人の追及って、情け容赦がないんですね。
「 し、してません 」
 な、なんでこんなことに素直に答えてるんだ。わたし……。



 あの日。
 白石清子さんは、わたしに言った。
「怪盗の研究に、一緒に参加させてほしいんだけど、ダメかしら?」
 やっぱり、有無を言わせない眼差しだった。
「えーっと、えーっと……理由を訊いても?」
 自分の研究理由も口外できるものじゃないだけに、弱気な訊き方をしちゃったけど――でも、普通不思議じゃない?
 「トコロテンの怪盗」を研究しよう、なんて。
 絶対、何かあるって思った。

「んー、不純な動機でも構わないなら」

(は? ふ、フジュンですか??)

 ……いや、わたしも十分不純ですから。
 とは、とても言えなかった。
 コクコクと頷くと、少しホッとしたように白石さんは息をついた。

「告白しようと思って」

「え?」

「 わたし、「トコロテンの怪盗」に恋に落ちちゃったの 」

 そうなんだ。へー。
 思わず、笑い合ってみたり。

 ………。

 ………………。

 ………………………って、ちょっと待ってよ! コイって、魚の……とか言うオチじゃなくて?
 あの人、カッコよくない。うん、いいよねー。やだ、わたし本気なんだからライバル? とか言う青春チックな甘酸っぱい恋のコトですか!?
 ああっ、ダメ。
 何がダメって、わたしが なんで こんなに動揺しているのかっていうのが、大問題だってば!

 だって、相手は……怪盗で。

 この気持ちって、なんだろう?
 白石さんって、美少女なのに趣味がヘン。っていうか、それを言ったらわたしも「ヘンな人」確定なんだけど。
 でもでも!
 わたし以外に彼を追う人(しかも、美少女!)が現れるなんて思わなかったんだもん。
 なんかモヤモヤする。
 まさか、ジェラシー、とか?
 ナイナイ! よね……たぶん。

「あれ?」

 背後からかかった声に、誰の声なのか――なんて、すぐに分かる。
 だって、好きな人の声だもん。
「白石……と、奈菜?」
「遥くん」
「飛木くん」

「 え? 」

 三人三様の疑問を浮かべて顔を見合わした。


   *** ***


 同じクラスの白石清子が「トコロテンの怪盗」に恋に落ちたと聞いた時、思わず口にしていた。
「んな、バカな」
 すると、奈菜と白石二人が変な顔をした。
 つーか、おまえら二人、趣味がおかしいって。
 なんで、怪盗に固執するんだよ。
 ああ、確かにクリスマスに盗みに入ったのは、白石の家だった。
 白石の母親は、女優・白石美つ穂〔しらいし みつほ〕で有名な「変なモノ」収集家なのだ。
 俺たちが集めているOパーツと呼ばれる「存在するはずのない」考古学的遺産はマニアの中では知られているが……その価値はあまり認められていない類のモノだ。何しろ使い道が不明のモノだから、個体では、ただの石と同じだし。
「それでね、白石さんも研究に加えてほしいって言ってるんだけど……」
「ふーん」
 と、しか答えようがなかったんだよ!
「姉貴に言っとく」
 ってコトで、姉貴に相談してみた。

「困ったわね」

 って、3年3組の前扉の前で 全然 困ってない無表情でこっちを見やがったよ。ああ、予想はしてたけどな!
 だーかーらー、俺のせいじゃないって……いや、俺のせいなのか??
 くそー、なんでこうやっかいなコトが重なるんだ?
 だいたい、白石だって会ったのはクリスマスじゃないか。おかしいだろっ、今更。
「はっはぁ! いいじゃん。加えてあげれば……その方が、監視だってしやすいし」
 姉貴と同じクラスになった西野雅弘センパイは、暢気に言ってくれる。
 ニヤニヤ、と笑った顔はやらしさの欠片もなく、いつも通りの美声。
 そして、スキンシップも相変わらずだ。
 いや、禁止令が解除されてからは、さらにパワーアップしているような気もする。
 お姉さま、胸の形が見えるくらい揉まれてますが……。
「確かに、そうね」
 ここで、そのスキンシップを素で流す姉貴はさすがだと思う。
 まあ、休み時間も少ないし……サクサク決めることを決めてしまおうという口なのだろう。
「別行動をとられたら、逆に予想がつきにくいし……それに」
 それに? なんだよ?
 こっちをチラリと見た黒ブチ眼鏡の奥の姉貴の目が、何かを企てて輝いた……弟の勘だけど。
「西野。奈菜ちゃんと一緒に白石さんの方もお願いね」
「はいはい。役得役得」
 センパイ。
 それは――姉貴の胸揉みながら、ウキウキと言うことか?
「……遥。そういうコトで、 シッカリ して頂戴ね」
「わかってるよ」
 辛辣な姉貴の あてつけ に、俺は仏頂面で従うしかなかった。



 放課後、奈菜を迎えに1組に顔を出す。
 と、いきなり腕を引っ張られた。
「白石?」
 白石清子は、俺の腕に自分の腕を絡めてニッコリと笑う。
「井元さんでしょ? わたしも一緒していい」
 彼女のコレは、俺の意思を尊重しているようでそうじゃない。
 もちろん、一緒に行くくらいは構わないが。
「……いいけど。腕組む必要はあるのか?」
 コレを奈菜が見た時のことを考えると、誤解されそうで正直頭が痛かった。

「 遥くん 」

 ほぅら、心配しているそばから奈菜の表情は固い。
 そんな俺たちの脇を1組の生徒が通り過ぎていく。
 と。
 白石の腕が離れた。
 いや、もう 遅い んだけどな。
 確実に誤解している奈菜は、俺と目を合わさずに白石の手を取った。
「白石さん、飛木くんなんかに触っちゃダメだよ。すーぐ、キスしてくるんだから」

(するかよ、……)

 あーあ、と俺はため息をついて二人のあとをひょこひょことくっついていく。
 まあ、奈菜にヤキモチを焼かれているワケで悪い気はしないなあ。
 なんて、鼻歌まじりに口笛を吹いたら、ふり返った不機嫌な子猫に思いっきり睨まれた。


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