盗のお仕事。3-2。「白×キス泥棒」2


〜甘品高校シリーズ3〜
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 カーテンを開けて、家の門を確かめるとやっぱり幻でも他人の空似でもなく…… がいる。

 今日なんかすっごく寒いのに。
 もしかしたら、雪だって降るかもしれないのに。
 彼は、朝からそこにいた。
( どうしよう…… )
 わたしは困って、ふと白い息を吐く彼・遥くんがこっちを見たものだから慌ててカーテンを引いた。
(だ! だからっ、コレが問題なんだってば。わたしのバカ!)
 そう、本当は嬉しい。
 もちろん、ヤツの告白が本当かどうかは怪しいけど……だって、あんなの冗談だとしか思えないし。
 事実、最後は笑われたし。
 でも、それでも「好き」って言われたら、信じてもいいかなって思う。

 もう一回、言われたら――「うん」って頷くんだ。



 はー、と遥くんは白い息を吐いて手袋の手を温め、こすりあげる。ぴょんぴょんと身体を跳ねさせる姿も、彼の身軽さを象徴するみたいにしなやかで、まるで重さを感じさせなかった。
 もちろん、彼が小柄だからということもあるのだけど。
 そんな彼に近づいて、ボソリと呟くわたしはやっぱり可愛げがなかった。
「バカじゃないの」
 ふり返る遥くんより先に、手にしていたモノを投げる。
 ぼふっ、と顔にぶつかったソレに遥くんは目をパチクリと瞬かせた。
「そんな格好じゃ、風邪ひくんだから。貸してあげる」
「そりゃ、どうも。けど、奈菜?」
 Gパンにセーター、上にダウンジャケットを羽織った遥くんはちょっと照れたように言ってから、ニヤニヤと笑う。
 何よ、その目は。
「ピンクはないだろ、ピンクは」
 とか、何とか不平を言いながら彼はソレを首に巻いた。
 だったら、着けなきゃいいのに。
「文句があるなら、返してよ。わたしのなんだから」

「やだ」

 にぃ、と笑って遥くんは、ズボンに突っこんでいた手でわたしの手を取った。
「な、何すんのよ!」
 引っ張られて、つんのめる。
 そんな私にヤツは嬉しそうに、言った。
「デートに決まってるだろ。奈菜だって、その格好はそういうつもりのくせに」
「ち、ちがうわよっ」
 そ、そりゃ。
 部屋着でもないけど!
 だって、遥くんに見せるのにだらしない格好では出れないじゃない。
 タイトスカートにセーター、上は遥くんのに近い白いダウンジャケットで、下はタイツと革のブーツだった。
 髪留めも今日は、ジャケットの白に統一しているの。
「まー、俺の勘違いでもいいけど。可愛いから」
「は?」
 一瞬、わたしは何を言われたか分からなかった。
 遥くん、もしや 今 わたしを、褒めましたかっ?!
 動揺するわたしをふり返り見て、ぷっと笑う。
 鼻の頭を赤くして、そんな顔されても……なんか照れるじゃない。



「どこ、行くの?」
「あー、そーいや決めてない」
「なっ……ちょっと待ちなさいよっ!」

 ぶん、と掴まれていた手をふり払って、ふり返るヤツの顔を睨んだ。
「じゃあ、どこに向かって歩いてるのよ! わたしたち、いま!!」
 ただでさえ思考は行き先不明だっていうのに、現実でも放浪なんて ヤ だってばっ!
「一応、駅のつもりだったけど……」
 と、遥くんは少し考えるみたいに空を見上げた。
「考えてみたら、今日ってクリスマス・イブの前日だし、どこ行っても人が多いよな?」
 やっぱり、考えてたんだ!
 予想が当たってホクホクしていたら、急にこっちにふってきた。
 いきなり、ふらないでよ……心の準備があるのよ、わたしだって。
「奈菜は、転校してきたばっかだからここらへん不案内だろ? どっか案内してほしいところある?」
「……どこでもいいの?」
「ああ、俺が案内できるトコロなら」
 っていうか、たぶん……遥くんにしか案内できないと思う。
 わたしは、ちょっと嬉しくなった。


   *** ***


 「あのね」と恥ずかしそうに俯きかげんで言う奈菜が、嬉しそうにふわりと笑った。
「遥くんの 過去 が知りたいな」
「はっ?」
 なんだ、その爆弾発言は!?
 俺の過去ってなんだよ……おい。
「小学校とか……」
「あー」
 なるほど。そーいう意味か。
 なんか、ちょっとホッとする。べつに、過去に後ろめたいことがあるワケじゃないけどさ。
 なんとなく、言えないこともあるワケで――特に、アレはなー。言いにくいだろ?
「小学校かあ」
「ダメ、かな?」
 キッ、と何故か睨んでくる奈菜に、思わず笑ってしまう。
 なんで、そんな攻撃的なんだよ。
 ワケ分かんねえ!
 けど、威嚇する猫みたいで全然怖くないんだ。正直な話、ちょっと可愛いとさえ思う。
 まあ、俺の主観だけど。
「いや、べつにいいけど……でもさ、ソレ。ホント近場すぎだよ」
 いいのか? ……と確認すると、奈菜はぷぅと頬をふくらませた。

「いいの!」

 ズンズンと先に歩いていく奈菜はチラリ、とふり返ると寒さのせいか……あるいは、照れているのか、頬が赤らんでいた。
「 そこ がいいんだもん」
「ふーん、そっか。じゃあさ、ひとつ提案なんだけど」
 笑いをかみ殺して、俺は奈菜を上目遣いで見た。あ、コレは俺の背の低さのせいじゃないから、念のため。
「なに?」
 不審そうに眉を寄せる彼女に、口の端を上げた。
 次の反応が、楽しみだ。

「引き返さない? じつは、逆方向なんだ――小学校」


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