盗のお仕事。2-3。「だしい答えの出し方」3


〜甘品高校シリーズ2〜
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 ドン、とぶつかった相手を見て、わたしはビックリした。
 しかも、「伶先輩」だと思った彼女は、「他人の空似」だと主張したから……え、 ええええ?!
 じゃあ、 アナタ は誰なんですか!
 三択です。
 本命、「伶先輩」の生き別れた双子。
 注意、「伶先輩」のどっぺるげんがー。
 大穴で、本当に他人デス!
 混乱した頭をフル稼働させて考えていたら、いつの間にか西野先輩がその彼女を追っかけていって――代わりに来たのは、遥くんだった。

「……遥くん。に見えるんだけど、ホンモノ?」

 と、自分でもちょっとマヌケ? と思うようなコトを訊いてしまった。
「 当たり前だろ 」
 なので、ヤツの反応も冷ややかだった。
 あまりに普通に肯定の返事を返されて、わたしは……訊いておいてなんだけど、情けないほど慌てた。
「な、なんでアンタがココにいるのよっ。じゃあ、やっぱり先刻〔さっき〕のって、伶先輩?」
「そうだよ、どう見ても姉貴だろ」
 カクランされてるなよ、とちょっと呆れたように口にして、遥くんはわたしを見る。
 ぐ……だ、だって、仕方ないじゃないよ。
 伶先輩があんなこと言うなんて思わないし、二人がココに登場する予定なんて わたしのスケジュールには なかったんだから――何も、そんなバカにしてコッチを見ることないじゃない。
「じゃあ、遥くんたちも調べに来たの? 伶先輩って「考古研」だもんね」
「まあね……奈菜は、何を勉強しに来たワケ? まさか デート じゃあないよな」
「 で、でーと?! 」
 ブンブン、と必死に首を振りすぎて目が回る。ここまで、動揺しなくてもいいとは思うんだけど、誤解されたくなかったし……なんとなく。
「ち、ちがう! なんでそーなるの?!」
「べつに。なんか俺らがここにいちゃメーワクそうだからさ……おまえ」
「な、何よ、ソレ。そんなつもりじゃないけど。ただ」
 やけに鋭く核心に迫ってくる容赦のない遥くんに、わたしは誤魔化そうとして逃げられなかった。
 なんでそんな怖い目で、見るのよ? 苦しいじゃない。
「――西野先輩に教えてもらってたのよ」
 ブー、と頬を膨らませて睨むと、途方に暮れる。
「 せっかく、コレについて教えてもらってたのに 」



 わたしが取りだしたのは、作為的に砕かれたような歪〔いびつ〕な形の平べったい石。
 それは、怪盗が残していったモノとよく似た形状の精巧な レプリカ だった。

 西野先輩が、カバンに入れていたのもコレなんだって。
「ここの名物なんでしょう? 天遺跡のOパーツ」
「ああ、まあ。奈菜は知らないんだっけ?」
「うん。Oパーツって何に使われていたか分からない、場違いな道具のコトなんだよね」
 だから、考古学的価値も一部の学者にしか認められてないんだって、西野先輩は教えてくれた。
「先輩って、詳しいんだね。ビックリしちゃった」
 遥くんは、ちょっと不機嫌そうにわたしを見てふんと鼻で笑う。
 あ、なんか感じ悪い。
「なによ?」
「センパイが詳しいのは、当たり前だよ」
「え、なんで?」

「聞いてない? ココの館長がセンパイの父親なんだ」

 と、さりげなく手を差し出されて、(え?)と思った時には強引に掴まれてた。
 そのまま彼に手を引かれると、自然、二人は手を繋いで歩くことになる。
「は、遥くん??」
「センパイの代わりに、俺が教えてやるよ」
 そうふり返った遥くんのニヤリ、とした表情にドキリとする。
 これでは、まるで ホントウの デートみたいだ……と思うと、うかぁと頬が熱くなった。
 波打つ心音は、さらに激しさを増す。

( ――どうしてかなあ? )
 と、わたしは不思議に思った。
 西野先輩のときには、そんなに意識しなかったのに……遥くんだと身体が勝手に、過剰反応する。
 こんなのって、病気かも。


   *** ***


 ほわわんとなった奈菜に、俺はまたムカついた。
(くそっ、そんなに雅弘がいいか?)
 と、思うと強引に彼女の手をとる。
「遥くん??」
 いきなりの俺の行動に、奈菜はやっぱり手を引いてきて……俺は離さなかった。
「センパイの代わりに、俺が教えてやるよ」
 ふり返って、宣戦布告。俺って、元々負けず嫌いなんだよ――悪いけど。

(そんな困ったような顔したってダメだから。諦めてよ)



「太陽の石と月の石があって、それぞれ砕かれた形で発見されてるんだ。当初、それは老朽による破損だと言われていたけど、一部の学者からは作為的との意見もあるよ。根拠としては、二つとも七つの欠片で構成されてるっていうこと、それに発見場所が多少離れていたことかな? ほかにもなんかあったけど、忘れた」
「忘れたって、遥くん。いい加減だなあ」
 むっ、と奈菜を睨むと、彼女は「何でもない何でもない」と笑って話題を変えた。
「もともとバラバラだったってコトは、集めたら何か分かるのかな?」
「それは、……考えとしてはあるみたいだ。強すぎる力は分散させる方がいい、ってどっかの学者が言ったとかで、今は全部バラバラに保管されてるんだけど」
「 ふーん 」
 天遺跡博物館で唯一保管されている現物を、ショーケースごしに眺めて奈菜は真剣に何事かを考えていた。
 俺にもそれが「怪盗」のことだろう、というコトは察しがついたが、あえて口にはしなかった。
「じゃあ、彼も……これの秘密を探ってるのかな?」
「え?」
 奈菜は自分が口に出していたとは思わず、目を瞬〔しばた〕かせて俺の顔を見た。
「彼って、誰のこと? 奈菜」
 ぴっ、と神経を毛羽立てて奈菜は目を泳がせた。

「 わ、わたし……そんなこと、言った? 」

 俺がコクリ、と頷くと、青かった顔が見る間に真っ赤に染まった。
 なんだ? その反応は。
 予想外のことに、俺もどうすればいいのか困る。
(まるで、恋してる女の子みたいじゃないか?)
 あ。
 と、奈菜は女の子だから「恋してる」だけでいいのか。
 どうでもいいだろうことに一応の訂正を入れて、ハタと思い至った内容に絶句する。
 奈菜が言った「彼」とは、たぶん「怪盗」のことだ。
(って、 じゃん!)
 とは思うものの、真っ赤な彼女と目が合うと、あからさまに視線をそらされて確信する。
(ないない。ぜってーナイ!!)

 奈菜が 怪盗 に恋するなんて、俺に恋するよりありえない。
 断言するのは情けないが、あの出会い方だ。――なあ、そうだろ?


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