唯子が透けるシミーズの上からブラにまで手をかけようとした時、純也は流石に止めた。
手首を握られた彼女は真剣な面持ちで彼を見て、何度でも言うつもりなのか、繰り返す同じ 言葉 。
「わたしは、先輩が好きなの」
「……わかったから」
純也がため息まじりに口にして、何とか彼女を思いとどめようと努力する。というか、むしろ今のままでは自分の理性が保てるかどうかだ。
そんな切実な彼の気持ちも、彼女には通じなかった。
ふるふると頑なに首を振ると、ブラを外すことは諦めて、そのままの下着姿で純也に抱きついてくる。
「わかってません。わたしがどれくらい先輩を好きか……全然、わかってない。言葉で信じてもらえないなら、体で信じてもらうしかないじゃないですか」
思いつめた表情の唯子が純也を仰ぎ、「それじゃ、ダメですか?」と訊く。
「わたしは、純也先輩のためならなんでもします」
〜 09.淡い絆が消えゆく前に 〜
その愛らしい色をした唇の誘惑。
体に纏わりつく、柔肌の温度。
目の端に映る、彼女の細い肩を滑り落ちるブラのストラップまでもが純也の持つ理性を殺〔そ〕いでいく。
「唯子」
彼女の唇に自分の唇を浅く重ねて、純也は彼女の小さな体を抱きしめる。
「先輩」
合わせるだけのキスに唯子は、ふわりと微笑んでうっすらと瞼を閉じた。
彼の首に手をかけて、身を任せる。
ほどよい重みに純也は息をつく。
一度は止めた唯子の胸を隠すブラのホックに、シミーズの裾からもぐりこんだ自分の手が今度は触れて……外してしまえば、本当に止めることができないだろうと思った。
(………)
彼女の首筋に唇を這わせて鎖骨を撫で、左の肩へと滑らせた。
シミーズとブラの上から胸のふくらみを手のひらで確かめて、優しく揉む。
着痩せするふくよかでやわらかなそれは、純也の手の中、手のひらにあまる大きさで張りのある姿を変幻自在に変え唯子のものではなくなった。固くなっていくつぼみに手のひらを強くこすりつけ、薄い布地の上から摘まんで転がす。
唯子の背中がビクリ、と反る。
「……ぁ」
初めての感覚に、耐えるように唯子は瞼を固く閉じて、純也の首にしがみついてきた。
小刻みに震える肩が、純也の目の前にあった。
ホックから手を離して、彼はポンポンと彼女の背中を叩く。
「じゅ、んやセンパイ?」
にっこりと微笑むと、純也は自分の上着を唯子の頼りない肩にかけて抱きしめた。
大切に、愛おしむように包む。
「僕も、唯子が 好き だよ。だから、もっときちんと伝えたい……こういう 形 じゃなくってね」
恐る恐る目を開けた唯子は、覗きこむ彼と目が合って真っ赤になって頷いた。
*** ***
折角、唯子が運んだキャンバスは次の日には高校の元の場所に戻っていた。
「唯子、せっかくの可愛い顔が台無しだよ?」
「だって、べつに先輩の家で仕上げてもいいのに……どうして、学校に戻しちゃうんですかっ」
ぶー、と不満顔で抗議をすると、純也は笑って答える。
「仕方ないだろう、うちの父親はほとんど不在なんだから。唯子と 部屋 で二人きりなんて危なくて仕方ない」
「どういう意味ですかっ!」
「そういう意味だよ。学校の方が 唯子の 理性が働いて安全なんだから」
「べつにいいのに……」
と、恥ずかしさ半分悔しさ半分で唯子は呟いた。
あの……顔から火がでるほどの大胆な所業。自分でも、あれが自分から起こした行動だとは俄かには信じられなかった。
「 嘘ばっかり 」
純也は強がる彼女を見守るように見つめて、キャンバスに向かう。
「本当だもん!」
ぶー、とさらにご機嫌を損ねた天使は純也の膝に頭を乗せて、上にある彼の顔を睨む。
「はいはい」
「もー! 全然、信じてないっ」
生返事で筆を動かす先輩を見上げながら、唯子は不満をこぼしながら(まあ、いいか)と小さな欠伸を くわり とした。
スゥ、と膝で寝入った唯子の栗色をした長い髪を手にして、純也はパレットから色を選び筆にいくつかを載せる。
油絵用の筆洗い油で筆をすすげば、カタカタと静寂に音が響く。
開かれた教室の窓からは生温かい風が吹きこんで、まだ夏が始まったばかりなのだと思った。
「 まだ、目覚めたばかりのクセに 」
ふわふわと心地よさそうに風になびく彼女の髪に微笑んで、その無防備な小さな額にキスをする。
ふたたびキャンバスに向かった純也は黙々と作業をこなし、唯子の頬が赤らむのを見なかった。
>>>つづきます。
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