シャッ、とカーテンが引かれる音が響いた。
一度達して朦朧とした意識の中、山辺志穂〔やまべ しほ〕は自分の中を貫いていた鳴海広之〔なるみ ひろゆき〕のものが抜かれたことにも気づかずに……運ばれて、リビングの真ん中にあったソファへとどさりと下ろされる。
「……あ?」
まだ、先程の余韻が体に残っていてどこもかしこもおかしかった。
〜 その後 〜
次に意識を取り戻した時、志穂はソファに横たわり毛布をかぶっていた。メイドの衣服はきちんと整えられていて、すべてが夢だったのだろうかと思うほどに乱れがない。
「鳴海、くん」
先ほどと同じように、窓から空を仰いでいる広之の姿がさらに彼女のそんな 錯覚 に追い討ちをかける。
闇の中で、何度となく繋がって、獣のように貪欲に求めた気だるさは 確かに 体に残っているのに……今の彼女を取り巻く状況は、まるで 何もなかった とばかりに否定する。
「……あ、あの」
ソファに転がったまま、なかなか体が思うように動かないことに恥ずかしさを覚えて志穂は頬を赤くする。
広之はそんな彼女をふり返り、「ああ、起きたんだ?」と安堵したように微笑む。
(ど、どうしよう……本当に、わたしの妄想だったんじゃ……あ、あんなのこの 鳴海くん がするワケない)
思い出せば、茹ってしまうようなことを たくさん された。
いくら彼の両親が今夜は帰らない……とは言っても、リビングでいたすには少々問題がありそうだ。回数も尋常ではなかったし――。
(き、きっと、途中から夢だったんだ……恥ずかしい)
志穂はそう結論付けて、自分の置かれた状況に逃げ出したい気分になる。
きっと、一回目が終わった時点で気を失ってしまったのだろう……そう、思うと彼を置いて暢気に寝ていた事実に気づいて、とても広之をまともに見ることはできなかった。
「どうしたの? まだ、つらい?」
気遣ってか、彼が優しく声をかければかけるだけ志穂は消え入りたくなる。
「う、ううん! 平気っ……鳴海くん、いま何時?」
「10時すぎ、遅くなりすぎたかな?」
「だ、大丈夫だよ。隣だし、すぐ帰れば――」
と。
ソファから立ち上がろうとした志穂は、滑り落ちるように床にへたり込んだ。
( え? )
足に力が入らないどころか、腰がくだけていてまともに立つことすらままならない。
目をパチクリと瞬いた志穂に、広之が歩み寄って「無理するなよ」と笑う。
「……な、なんで?」
自らの異変が理解できない彼女は泣きそうな顔で、彼を見上げた。
「鳴海くん、わたしの体、変だよ……立てない」
「まあ、あれだけやればね。ちょっと無理させたし、今日は志穂も頑張ってたし」
「え……え? わ、たし……なんかした?」
そこで、広之はようやく志穂の様子がおかしいことに気づいて、怪訝に屈みこむと彼女の額に手の甲を当てて首を傾げた。
「熱はない、か……ってことは、ボケてるな」
「え? あの……」
「どこまで 覚えて るんだ? ハッキリ言えよ」
明らかに苛立った彼の声に、志穂はビクリと怯えて俯いた。
「あ、あの……そ、ソファでしたのって夢じゃ?」
「そこかよ……しかも、夢オチっておまえ」
呆れた様子で広之は前髪をかきあげ、小さくなる志穂を睨んだ。
「ご、ごめんなさい。あの、じゃあ……やっぱり、あれは現実?」
「当たり前」
「がーん」
がーん、じゃないよと広之は、本気でショックを受けている志穂に思わず笑ってしまう。ここまで突き抜けると、一種可笑しいだろう?
「ついでに言うと、ソファだけじゃないから。あのあと、風呂場でも楽しんだの……覚えてない?」
どうりで、志穂にしては頑張ってると思ったんだと納得しつつ、みるみる真っ赤に染まっていく彼女へと意地悪に微笑みかける。
「 覚えてないなら、もう 一戦 くらい付き合うけど? 」
「! い、いいっ。思い出したから、いいっ!!」
力の入らない下半身のせいで飛び退ることはなかったが、志穂はらしからぬ素早さで拒否を示すと、かすかに漂うシャボンの匂いに今更ながらに気づく。
それは、お風呂に入ったという 確かな 証拠。
鮮明には思い出せないけれど……広之と湯船につかったような、そんな記憶もある。そのあと 例のごとく 思い出すには とても 恥ずかしい場面に突入したようだ……ということも、なんとなく。
「 ……どうしよう 」
頼りない記憶と、思いどおりに動かない下半身に途方に暮れて、志穂は 今日 家に帰ることができるのか ひどく 不安になった。
>>>おわり。
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