窓の縁に腰を乗せた広之が、志穂の腰を引き寄せて「やらしいな」と彼女のうなじに吐息を吹きかける。
「そんなに、欲しいんだ?」
「え?」
「ご褒美」
不意に駆け巡る思考は、つい先ほどの彼の言葉を反芻して……正確に理解する。
かぁっ、と頭に血が上る。
広之は時々、まるで騙まし討ちのように際どいことを口にする。
ぼぅっ、としている志穂は、それに気づくまでに時間がかかる。だから、意図しない失言も多い。
「……ちがっ!」
「違う? じゃあ、欲しくない? やめようか?」
志穂の腰にあるエプロンのリボンを指でもてあそぶ広之は、ぽそりとそんなことを笑いを含んだ声で囁く。
ぐっ、と志穂は言葉を詰まらせる。
「や……」
「や? なに?」
どうしようと、視線を彷徨〔さまよ〕わせる。けれど、答えは一つしかない。
「 志穂 」
彼に強く促されれば、志穂に逃れる術はないのだ。
「や、めないで」
「どうして? 違うんだろ?」
ブンブンとかぶりを振って、「やだ」と洩らして志穂は泣きそうになった。
いつの間に、自分はこんなにもやらしく、淫乱な体になってしまったのか。
「ちが、うの……欲しいの。―― ちょうだい 」
(……きっと、目の前の この男性〔ひと〕 のせいだ)
志穂が窓の向こうを眺めれば、欠けはじめた月が揺れて目に映った。
ギュッと抱きつく彼女の答えに、微笑んで広之は「いいよ」と優しく首筋に吸いついた。
〜 Halloween Moon2 〜
ふるえる指が、ブラウスの前のボタンを外して開いていく。
服を着たまま、前だけをさらけ出した彼女の胸元はピンク色のブラで包まれて、甘いデザートのようにデコレートされているようだった。
頬を染めて、上目遣いで広之をうかがう。
「まだ、だよ。志穂、ちゃんと全部出して」
「う、うん」
慌てて、ブラを緩め上へと押し上げる。
電光に照らされたまあるい胸は、ほのかに色づき実りはじめている。
(まだ甘いけど……)と、その形を親指でなぞって、広之は微笑んだ。
「よくできました」
そうして、彼女に深くキスをして指の力を強くする。
「んっ……ッぁ」
甘かった実りが、次第にかたく熟れていく。
ピン、と尖ったそれを指で摘まんで「こうして欲しかったんだろ?」と強く転がした。
「ッぅあ!」
ビクリ、と仰け反って志穂は恥ずかしそうに俯いた。
真っ赤になった耳に、唇を添えて「ねえ?」と訊くと、頷く。
「もっと、して欲しい?」
さらに訊くと、ギュッと彼に抱きつきながら目を閉じてコクコクと頷いた。
その睫には光るものが雨の雫のように危うくぶら下がって、パチンと弾ける。
ゆっくりと愛撫をほどこして、じれったいほど執拗に吸いついた。
「う、ん……ぁん」
「腰が、すりついてる……そんなにいい?」
露になった彼女の胸に顔を埋め、広之の唇が志穂の形をなぞりながら告げる。
「や、やんっ! しゃべっちゃダメぇ。ッて……え?」
悶え朦朧とした志穂は、窓の縁に腰を置いた彼の膝に無意識に跨ぐ格好になって密着していた。まだ浅いそれを、広之は深くなるように……彼女の戸惑う片膝を縁へと誘う。
そうして、開いた下肢〔そこ〕に指を挿し入れた。
「……ッ!」
彼女は息を呑んだ。
怯んで、咄嗟に膝を閉じようとするけれど間に合わない。
「やぁ……ん」
下着の上から抉られて、一気に熱を帯びる。
すでに濡れそぼって、溢れてはいるのだが……薄い布地にしみこませるように指が動くと、たまらなかった。
「ぁ……アッ、はっ」
何度か溝をこすられて、志穂の体が小刻みにふるえてくる。ヒクヒクと下着の上からも、そこがかたくたっぷりと何かを含んでたっているのがわかった。
広之の首にしがみつき、息を乱して志穂は懇願した。
「や……ダメ……お願い。な、るみくん……ちょうだい」
ごほうび。
志穂の唇がかたどって、彼のそれに腰を揺らめかす。
「上手く、できたらね」
広之は、最後の虚勢を口にして彼女に 難題 をつきつけた。
「目を開けて」、その命令に従うことは難しかった。
「志穂」
声だけで、ビクンと体がかたくなる。
恥ずかしかった。
目を開けなくても、自分のふしだらな姿は想像できる。メイド服のまま、やらしく尖った胸を晒してしどけなく足を開いて……白いタイツまで滴った雫で、彼の服まで汚してしまっているだろう。
体のふるえは止まらなくて、蠢く中に指を入れなくてもどうなっているのか、なんて丸わかりだ。
首を振って。
でも、本当はわかっている。
そんなことをしても、無駄だってことは。
広之の手が志穂のタイツと下着をずり下げて、後ろから割れ目に入る。
「……ッん!」
「できないの? だったら、ご褒美はあげられない」
いつの間に彼はそれをズボンから出したのか、目を瞑ったままの志穂にはわからない。
しがみつく志穂の片方の腕を導いて、触らせる。
「ご褒美いらない? 指〔これ〕だけで、いく?」
クイ、と中に入った指を曲げて、爪で襞をこする。
「やっ!」
と、首を反射的に振って、志穂は手のひらに感じる固さと熱と脈動に思考を溶かされた。
もちろん、彼の指でされるのも気持ちがよくて、達するのには何の問題もなかった。
けれど、指では到底届くことのない場所に彼なら届く。
いま、彼女が 一番 きて欲しくてたまらない場所に――たどり着くことができるのに。
「イヤ……なの」
ふるえる。
瞼をそろそろと上げて、揺らめく視界の中で広之を見る。
「コレ、が欲しいの。ご主人さま」
無意識に彼女は手にした彼を、撫でた。
*** ***
動いて、キスして、煽って。
「ふッ……アッ、ああっ」
命令しても、なかなか上手くできない彼女をフォローして広之は突き上げる。
メイド服をほぼ着たままの行為〔それ〕にケダモノじみたものを感じながら、彼に必死に応えようと床に着く片方の足を懸命に踏ん張って揺れる彼女を見つめ、性急に追いつめられていく。
ぐちゅぐちゅと卑猥に締めつけられる下半身。ギュウギュウに包まれて、先までぴたりと嵌る。
「はっ、いいよ……志穂」
彼の予想を覆す、快楽。
深く、激しく突き上げると、広之の熱を孕んだそれは志穂の奥をぐりっと押した。
あっ、とか細い声を上げて仰け反る体。汗ばんで、艶かしく揺れる。
「あっ、あっ、あ……ご、しゅじんさま。も、う……ああんっ……」
(ご主人さま、ねえ?)
断続的に痙攣する彼女の中へ膜越しに迸らせ、抑えようのない興奮の息をつく。
「 倒錯的 」
呟いて、広之は明るいリビングで脱力したメイドの背中を支えて、窓の向こうの沈黙の月へと視線を上げた。
これ以上を見せるのは、たとえ 相手 があの月でも許せそうにない。
乱れる志穂を映すのは 所有者 である自分だけの 特権 だと、広之は翻るカーテンを掴んで引いた。
>>>おわり。
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