気がつくと、そこは見覚えのない部屋だった。
「……ん」
「志穂」と呼ばれて、ひんやりとした感触に目を向けると広之が氷の入った水を差し出した。
もう片方の手には、自分用にコーヒーでも淹れたのか、湯気をたたえたカップが香ばしい豆の香りを漂わせている。
体を起こして、コクリと水を飲んだ。
ハッキリとしない記憶の中で、バスから降りたことと広之に支えられながら歩いたことだけぼんやりと思い出す。
「ここは……?」
「ホテル」
「……ふーん。ほてる。ホテルかあ……あ?」
あれ? と思ったら、唐突に彼の従兄弟である赤牧十波〔あかまき となみ〕の顔が頭に浮かんだ。
〜 ひっこみじあんなクリスマス4 〜
『いい部屋とっておいたわよ。感謝なさい』
形のいい胸を張る彼女から、何かを受け取る広之を思い出す。
それは、バスを降りてすぐのやりとりだった。声をおさえた二人の会話は、ザワザワと降車したあと荷物の確認をしている向こう側のクラスメートの喧騒にも掻き消されるほどだった。
『……ただし、寝てる子を襲うのはやめなさいね。……起きたら、冷たい水でも飲ませてちゃんと……の了解を得るのよ?』
途切れ途切れに聞こえた十波の声に、今の状況が重なる。
「志穂?」
訝しげに、ぼんやりとした彼女を覗きこみ広之は唇の端を上げた。
「イヤ?」
だったら、口にしていいんだよ? と彼が暗に示すと固まっていた彼女がぶんぶん、と首を振った。
「いや、じゃない……けど」
「けど?」
ぽすん、とベッドに押し倒し、広之は志穂の胸に服越しに触れて見下ろした。前髪が一筋、目の前に落ちてきて帳をつくる。
服の合わせ目を無意識におさえた志穂は、恥ずかしそうに彼を見てさらに赤くなる。
「……お、風呂に入りたい、デス」
と、それは小さな声で 切実な願い を訴えた。
*** ***
キスをされる。
あさく、ふかく……すぐそこで目が合うたびに恥ずかしくなって、理性は溶けてなくなっていく。
もっと。
もっと、気持ちよくなって――あなたが 欲しい から。
「ッ……や。やだ……やぁっ! だめっ!! 鳴海くんっ」
嫌がる山辺志穂〔やまべ しほ〕の体から服を剥〔は〕いで、鳴海広之〔なるみ ひろゆき〕は彼女に覆いかぶさった。
「ダメ? どうして?」
困りきった彼女の顔。今にも泣きそうな目には、こぼれそうな涙がたまって揺らいでいる。
「ま、待って……お風呂……入らないと、汗かいてるから……わたし……や、やだっ」
真っ赤になって、消え入りそうな声で言う志穂を半ば無視して、広之はさらに彼女の衣服を崩して、素肌に触れる。
「鳴海くんっ、待って!」
「待って?」
聞き咎めるような、彼の声が「冗談だろ」と笑った。
「じょ、冗談なんか言わないもん……」
(しかも、こんな場面で……)と、恨みがましく思う。
必死で服をかき合わせ、その腕から逃げようとするが背中を向ければ逆に体を羽交い絞めにされて、身動きがとれなくなる。
元来、彼女は後ろからの攻撃に弱い。
「 待てない 」
耳元で低く囁かれ、真っ赤に染まった耳たぶを甘く噛まれれば背中をビクンとふるわせる。
セーターを剥いだ下にあるブラウスのボタンは半分以上外されて、その下の薄いピンク色をしたブラジャーを覗かせる。まろやかな胸のふくらみを隠すそれは、ほんの少し抱きすくめる広之の手を滑らせるだけで上へと持ち上げられる。
「あっ」
背中を丸めて、志穂はさらに動こうとする彼の腕を掴むと背中越しに振り仰いだ。
「好きだから、待てない」
真剣な目で告げられて、優しいキスに唇をふさがれる。最初は小鳥が啄ばむように、それが溶け合うふかい口づけに変わるまで、あまり時間はかからなかった。
彼の手を制する彼女の腕から力が抜けて、胸を好き勝手に愛撫されると身を委ねるしかなかった。
>>>続きます。
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