水着の下から胸をまさぐられていると、後ろから声をかけられた。
「あー! おまえら、こんなところでイチャついてやがる。やーらしー」
「 ! 」
驚いて、志穂は慌てて広之から飛び離れようとしたが、彼の腕に止められる。
考えてみれば、離れた方がイロイロと恥ずかしいことになっていたことに、彼女は気づかない。
「あ……やっ……はなっ」
シッ、と黙るように短く指示されて志穂は黙りこむと、ことの成り行きを見守るしかなかった。幸いなことに、彼らはまだ二人から離れた場所にいて、まさか委員長が彼女の胸を じかに 触っているとは夢にも思っていないだろう。
もちろん、浜辺で抱き合う ラブラブな カップル程度には映っているとは思うが――。
(いやー、いやーっ)
〜 夢見るウサギ、恋するオオカミ7 〜
「バーカ。おまえら、他人の恋路を邪魔すると馬に蹴られるぞ……まあ、俺は見せつけてもいいけどね」
広之はあからさまな挑発で応じ、彼らに見せつけるかのようにわざと恥ずかしがる志穂の頬にキスをする。
から。
「〜〜〜△%&$□#×ッ?!!」
予想だにしない事態に、ただでさえ目立つことに慣れていない彼女は言葉にならない叫びを喉にはりつける。
クラスメートの集団は遠く、囃し立てながら「うーわー」とか「やりやがった」とか「山辺が固まってるぞー」とか「開放的な夏の海のせいだな」とか……遠巻きに投げてくる。
なのに。
一定距離をおいて近づいてこないのは、どうして?
騒ぎ立てる彼らの後ろから、澤嶺祥子がやってきて呆れたような顔をした。
「アンタたち、無粋なことしないの! あの 委員長 に凄まれてるじゃない。気を利かせなさいよ」
そうして、未練がましくブーブーと不平をたらす男子を、「ホラホラ」と追い立てる。
「――委員長も。いい加減に戻ってこないと、あの欲求不満児たちが何しでかすか、知らないから」
言い置いて、彼女は すべてを 察しているとばかりに微笑んだ。
*** ***
その夜、志穂は……。
寄せては返す波の音。
届くはずのない、その音を聞いたような気がした――。
浴衣から私服へ、帰り支度をまとめる彼女へ一足早く準備を終えた彼が戸口に立って、訊いた。
「まだ?」
「う、うん。あともう少し……」
と。
一般的に男性よりも女性の方が身支度に時間がかかる。それに加えて、お世辞にも彼女は要領がいいとは言えなかったから彼にとって待つことは苦痛ではなかった。
「鳴海くん。お待たせ」
精一杯、急いで支度を整えた彼女は申し訳なさそうに彼の前に立った。
「いいの?」
「え?」
顔を上げ、うかがうように彼の顔を見た志穂はその視線の先をふり返り、わたわたと慌てて部屋の中に戻った。
畳の上に置き去りにされた財布には、志穂の全財産が入っている。そして昨日の夜、広之から持っておくようにと勧められた避妊具もしのばされていたりする。
財布を鞄に詰めこんで、不安になった志穂は部屋の中をぐるりと見渡して、洗面室を覗く。
忘れ物はない。
「ご、ごめんなさい。お待たせしました」
今度こそ大丈夫、と戸口までやってきた志穂に広之が「しっかりしろよ」と笑い、ふと動きを止めたからドキリとする。
( な、なに? )
また、何かバカなことをやっているのだろうか? と不安になる。
広之の腕が伸びて、志穂の首の付け根に触れた。カジュアルなTシャツに薄いパーカーを羽織った彼女は、めずらしく長くはない黒髪をバレッタで上に止めている。
首筋が露な格好は慣れていないから、たったそれだけのことだったけれど息を呑む。
「髪を上げたら涼しいの?」
「う、うん。風が通るから……」
戸惑った志穂がたどたどしく答えると、彼は「ふーん」と相槌を打ってしばらくジッと眺めていた。
「へ、変?」
「いや――」
彼女が不安そうにうかがうのをくすりと微笑んで、広之は「似合ってるんじゃない」と顎に触れ優しく 何か を呑みこむように口づけた。
>>>つづきます。
夢見るウサギ、恋するオオカミ6 <・・・ 7 ・・・> 夢見るウサギ、恋するオオカミED
|