姫君 夢見るウサギ、恋するオオカミ-2


〜NAO's blog〜
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 気まずくなってから、志穂は広之に直接顔を合わせることができなくなった。
 ちょうど、夏休みに入ったこともあり……家でジッとしていれば、それは容易に叶う。しかし、それではダメだと精一杯の勇気で持った受話器から響いたよく知る声に唇がわなないた。
『志穂ちゃん? ああ、広之ね……ちょっと、待って』
「あ……い、いえ。いいんですっ。すみません」
 思わず切ってしまってから、後悔する。
「ど、どうしよう……切っちゃった」
 今度こそ、と思って挑戦するけれど次は さらに ひどかった。
『志穂?』
「ッひゃっ!」
 ゴトン。
 と。
 予期せぬ広之の声に 思いっきり 受話器を落としてから、再度受話器に耳をあてる勇気はなくて……ようやく恐る恐る耳にあてた時にはツーツーという無機質な不通話の音になっていた。
「……当たり前だよね」
 呆れられても仕方ない、と思う。
 これでは、ただのイタズラ電話だ。
 もう一度かけるなんて所業が出来るワケもなく、受話器をそのまま元に戻すと深い淵に落ちこんで志穂はトボトボと二階〔うえ〕に上がった。



〜 夢見るウサギ、恋するオオカミ2 〜


「な、なにをやってるんだ? アイツは……」

 そんな娘の挙動、一部始終を不審に居間の扉から眺めていた父親が眉をひそめ、母親がおっとりと首を傾げた。
「さあ? 隣の広之くんと 何か あったのかしらねえ? 別れ話とか」
 彼ら二人の……どこか優柔不断な娘に 勿体無い ほどのシッカリした「彼氏」が出来たのは、おおよそ六ヶ月前のこと。当初は何かの 間違い か 冗談 だと思っていたが、どうやら当人二人が「真剣らしい」と理解できるようになったのは じつは つい最近になってからのことだ。
 不釣合いな二人にしては長く続いたものだが……もう六ヶ月、頃合と言えば頃合か。
「……そうか」
 慰めてやらねばな、としんみりと考えた父親に母親が呆れたように息をつく。
「あなた、ココ、男親として 一応 フォローするトコロですから」
「むっ」
 彼はハッとするものの素直に自分の非を認めるのも躊躇われ、苦虫を噛み潰したような顔をしてすました彼女を睨みつけた。


*** ***


 数日後、電話をかけてきた澤嶺祥子〔さわみね しょうこ〕に相談すると思いっきり笑われた。
「ひどい、祥子ちゃん」
 そんなに笑うことないのにっ……と、志穂は悲痛に声で訴えるが、それがまた祥子の笑いのツボに嵌っているとは思いもしないに違いない。
『いやっ! もう、わたしを笑わせてどうする気なのっ、あんたたち!!』
 ヒーヒーとひとしきり笑った彼女が苦しそうに言ったから、志穂は不満顔で応戦した。
「そんなの知らないもん!」
『まーまー、そんな怒んないの。そうだ、海に向けて水着買いにいかない? 志穂』
「え?」
『可愛いの選んであげるわ。王子様も落ちるような、ね……大丈夫、男なんてね。(悩殺的で)可愛い水着だけで機嫌が治る、単純な獣〔イキモノ〕なんだから』
「……そ、そうなの?」
 半信半疑な(というか、なんか妙なニュアンスと漢字があてられていたような?)志穂は訝しく問い返すが、電話越しの友人は「そんなもんそんなもん」と繰り返すばかりだった。

(でも……)

 本当にそれだけで仲直りできるなら、素直に縋りたかった。
『どうする?』
「……うん。買う、から祥子ちゃん……教えてね」
『そうこなくっちゃ!』
 ウキウキと祥子は応じて、テキパキと待ち合わせの場所と時間を決めた。



 意を決してフィッティングルームから顔を出すと、志穂は「どうかな?」と本日のコーディネーターでもある祥子に訊いた。

「 そうねえ 」

 テレビでひっぱりだこのファッション・リーダーよろしく、顎を支えた格好でじっくりと眺めた彼女はチラリと志穂の表情を見る。
「わたしの個人的統計から言うと、ビキニの方が男心をくすぐると思うのだけど……」
「び、ビキニ……?」
 びくん、と体を震わせて、引きつった顔で志穂は友人の言葉を繰り返した。
 今現在、彼女が身につけているのは少し露出の深いワンピースの水着……それでも、志穂には恥ずかしくて仕方ない代物なのに、さらにビキニとなれば人前になど立てそうもない。
 胸の前で知らず指を組んだ志穂は、縋るように祥子を見つめた。
「まあ、でも。あくまで、それは統計的なことだから、コレはコレでいいと思うわよ? っていうか、別の意味で大胆よね」
 くすり、と笑う祥子に志穂は意味が解からなかった。
「え?」
 確かに少し露出は高い。特に背中が深く抉〔えぐ〕れていて、おしりの上あたりまで肌が見えるスタイルだ。腰から上、首の下までクロスしたヒモで綴じているから、あまり気にはならないけれど……。
「だ、大胆かな?」
「いいんじゃないのー? 志穂らしくて」
 祥子は「本当の意味」で 理解していない だろう志穂のあどけない表情を眺めて、(王子様の理性がどこまで持つか……見物〔みもの〕だわね?)とニンマリと目を細めた。


 >>>つづきます。


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