焼けと机と室と。 blog5-4


〜NAO's blog〜
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 病院で八針を縫った輝晃はポカポカと小槙に叩かれた。
「もうもうっ、ビックリさせんといてよ! 心配してんから」
 あのあとすぐに、輝晃からの緊急時用の連絡を受けていた野田が戻ってきて、警察に通報。女はその場で逮捕され、輝晃は病院に搬送された。
 怪我、といってもかすり傷程度だが――小槙の胸で意識を失ったフリをしていた輝晃に、知らない彼女は半狂乱だった。
 なのに。
 診察から戻ってきた彼は、ケロリとしていてホッとしすぎて腹が立つ。
「痛い、痛いて……そこ、傷口……」
 フーフーと息を荒くして小槙は泣いた。
「し、死ぬかと思ってんから。アホー」
 うー、と必死に涙をこらえる彼女の頬を両手で挟み仰がせると、彼はペロリと涙の溜まった鼻の頭を舐めて「アホはないやろ、アホは」と苦笑した。



〜 エピローグ 〜


 抜糸もすんで、ホテルでの潜伏生活にも慣れた頃。
 ふと、ベッドで小槙を押し倒した輝晃が思い出したように「あ」と声を上げた。
「なに?」
 裸の小槙はビックリして目を瞠り、彼を見上げる。
「いや、あー……小槙さ。俺に言うことあらへん?」
「? べつにあらへんけど?」
「ふーん」
 歯切れの悪い輝晃に、小槙が訝しむ。
「なんやの。なんか気になることでもあるん?」
「……つーか。生理きてる?」
「うん。ちょっと遅れたけど、先週……」

「………なんや」
「………輝くん」

 互いに目を見交わし、パチンと小槙が輝晃の頬を叩いた。
「知ってたん?! あの日のことっ」
「なにも叩くことあらへんやろ! 酔ってたけど、覚えてへんとは言ってない。ただ、記憶がハッキリせぇへんかっただけや!!」
「なっ、なっ……じゃあ、避妊せぇへんかったことも覚えてるん?」
「……曖昧やけど、そうやろなとは思ってた。おまえの様子も変やったし」
 答えながら輝晃が小槙の身体に触ろうとすると、彼女は嫌がって背中を向けた。
「小槙、怒るなよ」
「知らん知らん、確信犯やなんて思わんかった。信じられへん」
 背中から抱きしめて、嫌がる彼女を無理矢理に包みこむ。
「……あの時のおまえ可愛くて、つい欲しくなったんや」

「……なにを?」

「小槙と俺の子ども」
 ピクリ、と反応して、小槙は「ホンマに?」と彼をふり返る。
「ホンマに」
「わたしも、欲しかった」
 キスをして確認すると、嫌がらなかった。
「作る?」
「うん。でも……」
 肌を走りだした輝晃の手をピシャリと止めて、小槙はするりと抜け出した。
 決然とした声で、無情に告げる。
「悪いけど。結婚するまでは、絶対せぇへん!」

「――って、オイ! ちょっ、待て。小槙っ、どういう意味や」

 焦った輝晃は、服を身につける彼女の腕を捕まえて真意を問い、「そのまんまの意味やもん」と顔も合わせてくれなかった。
(おいおい)
 固く背中を向けてベッドに入った彼女を見つめ、輝晃は頭を抱えて 悪夢 だと思う。
 素直で従順だが、こうと決めたら頑としても譲らない、それが小槙だ。
「 嘘、やろう? 」
 呆然と、途方に暮れた。


 >>>おわり。


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