「小槙、こーまき……殺生やから、なあ」
つい先刻〔さっき〕。
「結婚するまで」宣言をした仁道小槙〔にどう こまき〕の頑なな背中に、情けない馳輝晃〔はせ てるあき〕の声が諦めきれずに懐柔を試みる。
「俺が悪かった。謝るから……」
答えない華奢な肩を掴んで、向き直させる。
( コレ ――は、ないやろう? 反則 や)
〜 偽りのエピローグ 〜
「 泣くなよ 」
彼女の目に耐えて浮かんだ一粒の涙を、指で拭って輝晃は苦々しく呟いた。
どんな彼女にもすこぶる弱い彼だが、こんな涙には「やせ我慢」だってしなくちゃいけないような……やるせない気分になる。
「……輝くんは、わたしがどんな気持ちやった、と……思うてるんよ?」
「……え。えーっと、怖かった?」
唇を引き結んで睨んでくる彼女は可愛い。
頷いて、
「トーゼンや。怖くて、悲しかった」
「ごめんて」
「……せやから、結婚するまでイヤやねん」
そうしてぶっ飛ぶ、あまりな論理の飛躍ぶりに理由はよく分からないが、ひたむきに懇願されれば突き放すこともできない。
(しゃーない、かあ?)
小槙の提示した無理難題をとりあえずは受け入れて、輝晃は彼女の体を胸に抱きしめ天を仰いだ。
*** ***
あかん、と抵抗した彼女が、おずおずと手を彼に伸ばした。
そして。
「……ううん。なんでも、あらへん」
と、いつもより少し大人びた表情で、煽った。
輝晃からすれば、誘ったのは 彼女 の方で 自分 じゃない。
もちろん、会うのが久しぶりだったというのもあるし、いつもより酔っていたのも確かだ。
出迎えた彼女に欲情したのも彼なら、玄関で押し倒したのも彼の意思に違いない……。
「ん……ぁん」
下になった小槙が、輝晃の腕のシャツを固く握りしめて悶えた。
キャミソールからはみ出た感じの裸の胸、たくし上げられたスカートに膝を立てた格好では大事なところも暴かれる。
すでに十分にぬかるんだ場所へ指を突っこみ、鼻先をくっつけて、ぴちゃぴちゃと舐め上げる。
舌を入れる。
「もう……やっ。あかん、って言うてるのにっ」
腕を掴む指に力がこもって、言葉ほどは嫌がってないことを知る。
「もっと、溶けて……小槙」
と、執拗に攻め上げれば、感じやすいほどに敏感になった身体は彼の下で少女のように恥ずかしがって、女性としての花びらを開いていく。
何もつけずにあてがって、それを許した彼女に目が眩む。
埋めこめば、じかに吸いつく熱。
動くたびに背筋に悪寒のような電気が走って、いつもより自身が興奮していることを自覚した。
「あ……あ……」
その感触がたまらないのか、小槙が腰に脚を絡めてきて、色っぽい潤んだ目で合図する。
(『早く来て』……ってな、それに抗えるか?)
命一杯、彼女の希望に沿うよう努力をしたつもりだ。
もちろん、輝晃の勝手な想像だが――。
そこまで考えて、輝晃は小槙に 絶対 否定されるだろうなあと思い至る。
(アレや……そんなんしてへん、俺の妄想やとかナンとか言うに決まってるんやけど)
寝入った彼女のセミロングの黒髪を撫でて、その無防備な表情にふわりと笑う。
「絶対や、アレはおまえが誘ったんやで? 小槙」
輝晃が誘われて、落ちるのも 小槙 だからこそである。
彼女がイヤだと言うのなら、付き合おう。少なくとも、今夜は それ でいい。
>>>おわり。
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