焼けと机と室と。 blog5-2


〜NAO's blog〜
 blog5‐1 <・・・ blog5‐2 ・・・> blog5‐3



 結婚の公表に関しては、吉原社長も慎重だった。
「ヒカル、その件に関しては保留と話をしていたと思いますが」
「わかってる。けどな、今回のことで俺は不愉快な思いをしてる。小槙に手を出すような事務所に従う理由はどこにもない」
「それは、事務所を離れるというコトですか?」
 少し、目を瞠って吉原は口にして、ヒカルを見定めた。
「そう、とってくれても構わないよ」
 まさに、一触即発という彼に隣に座った小槙が慌てた。
「ちょっ、何言うてるんよ! アホなこと考えんといて……わたしは大丈夫やから」
 むっ、と相手を気遣う小槙の態度に輝晃が「なんでや」と腹を立てた。
「結婚反対されてるんやぞ! 関係のない、こんなヤツに。そいつに、こんな痕までつけられて……小槙は平気なんか!」
 ズビシ、とあからさまに悪意をこめて輝晃は社長を指差し、小槙を問いただす。
 泣きそうになって、小槙は言い返した。
「平気やないけど、仕方ないやん。輝晃くんはそういう世界の人なんやもん」
「そういう世界ってナンやねん!」
「なによ。輝晃くんの方が、酷いやん。わたしにナンも言わんとあんな会見して!」
 ポロポロと小槙が泣いたので、輝晃は「なんやねん」と参ったように頭を掻いた。
「本当のことやし、いつかはバレることやろ。泣くほど嫌やなんて思わん……嫌やったんなら謝る」
 ふるふると首を振って、俯いた小槙は「そうやない」と小さな声で否定した。
「そうやなくて、連絡くらい欲しかった。わたしだけ蚊帳の外なんて、いやや」



〜 blog5‐2 〜


 泣き顔で見上げられ、輝晃は場所もわきまえずに欲情した。というか、社長が邪魔だ。

「ごめん、て……泣くなよ」
「誰のせいやと思ってるんよ。止まらへん」
「わかった。わかったから、俺が全部悪い……社長、というコトなんで保留のままで 譲歩 します」
 その顛末に皇は笑い、見事なモノだと感心する。
 操縦の難しい気分屋の八縞ヒカルをここまで手懐けるのは、至難の技だ。マネージャーである野田が、彼女を重宝したがるのも頷ける。
「社長、もういいだろ?」
「ああ、そうか。今日はオフだったな……あの会見のコトもあるし、彼女の周囲も騒がしくなるかもしれない。この部屋はソレ用に用意したものだから、よければ使え」
 カードキーを置いて、二人を残して出て行った。



 泣く小槙を輝晃は抱きしめた。
「悪かった。せやけど、俺かて必死なんや……結婚かて、早く決めんとヤバイやろ」
「なんでよ。べつに、急ぐことなんか、あらへん」
 ギュッ、と抱きついてくる小槙の身体に愛しさを感じつつ、ハァとため息をつく。
「ソコやんなあ、問題は。俺が結婚を急ぐんは理由があるねん」
 仰がせて、涙の残る頬に唇を降らせる。
 ビックリした小槙は涙を止めて、輝晃をマジマジと見つめた。
「……理由って?」
 くすり、と笑って、「さあ?」とそらとぼけた。

「 小槙かて、俺に隠してることあるんやない? 」
 と、うそぶいてゾクリとする貪欲なキスを首筋に……うなじにと、つけた。


*** ***


 案の定と言おうか。
 小槙の周囲は騒がしくなった。マンションばかりでなく、仕事場にも取材はやってきて聞き込みもされているようだった。
 通常の仕事にも支障が出る前に、自主的に辞めるつもりでいた。
 が。
 弁護士事務所のボスである泉千鶴〔いずみ ちづる〕は、それをやんわりと牽制して……謹慎を言い渡した。
「真面目にとらえすぎるのは仁道君らしいがな、私はそれほど冷たくないつもりだよ」
 と、肩を叩かれて小槙は頭を下げて反省した。
「ボス、申し訳ありません。ありがとうございます」
 世の中は、自分が思うほど 単純 でもなければ、 薄情 でもない。知っていたのに、知らないフリをした。傷つきたくないがために、逃げそうになっていた。
(あかんなあ、わたし……もっと 強く ならんとあかんのに)

「どうしたんだい? 仁道君」

 お腹を押さえた小槙に、ボスは訊いて心配そうに首を傾げた。


 >>>つづきます。


 blog5‐1 <・・・ blog5‐2 ・・・> blog5‐3

BACK