焼けと机と室と。 blog5-1


〜NAO's blog〜
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 黒服の男たちに、マンションの前で連れ攫われるように車に押し込まれた小槙はホテルの一室に案内されて、硬直した。
「お待ちしてました」
 にっこりと、微笑んだ男性は「皇キラ〔すめらぎ きら〕」という芸名を持つ元・モデルであり、八縞ヒカルの所属する事務所の社長、吉原元〔よしはら はじめ〕だった。
 カリスマ的な美貌に、引退の際にはかなりの騒ぎになったものだったが……どうやら、経営の才も高いらしい。
 地味な役者の事務所を現在の名前の通った一流の事務所に育てあげたのは、彼の手腕によるところが大きいともっぱらの噂である。
 ソファから立ちあがった彼が、紳士的に小槙をいざなった。



〜 blog5‐1 〜


「……あの」
「どうぞ」
 彼が本名をしるした名刺を差し出し、座るように促す。
 困って、小槙は立ち尽くした。
「輝晃くんのことで、お話があるのではないのですか?」
 やけに友好的な態度に、不信感を抱く。左手をとられ、手のひらにキスされるのも、小槙にはどうでもいいことだった。
「どうして? ヒカルの彼女である 貴女 に私は興味があるんですよ――よく、知りたい」
「……はあ。知って……別れろと勧めるおつもりですか?」
 溶けるような優しい笑顔も、小槙の不安を煽るだけだった。彼は苦笑して、頑なに拒む彼女を見下ろした。
「勿論、ヒカルより私を選んでいただければ……とは思いますが」
「はあ……。え?」
 よく、意味が分からなかった。
 見上げれば、見惚れるような男の顔。その唇が綺麗な曲線を描く。
「私は、貴女を口説いてるんですよ。小槙さん」

「はあ?」

 さらに混乱して眉根を寄せ、小槙は首を傾げた。
「何を言うかと思えば……こんな時に冗談ですか? それより、私に何かおっしゃるために呼ばれたんでしょう? 別れろとか、付き合いを隠せとか……回りくどいことをされなくても心の準備はできていますから、どうぞおっしゃってください」
 最後には泣きそうな表情で言って、真剣に待つ。
 ぷっ、と誰かがふきだした。
「なるほど。ただの 面食い と言うワケではないんですね」
「め、面食いって。輝くんの顔が好きじゃあ 何か 悪いんですかっ」
 真っ赤になって、反論する。が、コレは力説するようなコトなのか、どうか。
 まあ、当人同士が気にしないのであれば問題はないのかもしれない。
「……いえ、べつに。悪くはありませんが、ただ」
 ちょっと面白くないかなあ、と強引にソファに座らせて、押しつける。
 ようやく気づいた奇妙な体勢に小槙は、焦った。
「な、なにするんですかっ。変なことをしたら訴えます!」
 キッ、と怯える瞳で睨まれ、皇は「うーん、なかなか」と可笑しそうに口の端を上げた。
「それは、怖い。では――本気で口説いてみようかな?」
 と、震える小槙の髪をすくって、唇を寄せた。



 輝晃がホテルの部屋に着いた時、吉原社長と小槙はテーブルを挟んで対面していた。
「ヒカル」
 と、先に社長が呼んで、振り返った彼女がホッとしたように輝晃を見つめた。
「輝晃くん」
「小槙、平気か? 何もされんかった?」
 社長の整ったニヤケ顔を睨みながら、小槙に駆け寄る。
「う、うん。平気」
 手首についた強く力を加えられた拘束痕に、輝晃の視線が止まって慌てて小槙が補足した。
「ちゃうねん。わたしが口説かれてるって気づかんかったから」

「口説く?」

 さらに険しくなった輝晃の様子に、小槙は自分の失言にようやく気づいた。
「ちゃ、ちゃう。あの、口説くフリって言うか……なんやろ? とにかく、本気やなかったのに、わたしが気づかんかったから力が入ってもうてんて。謝ってもろうたし、平気やよ」
 首を傾げて、いまだに小槙はその 意味正確に 理解できていなかった。
「小槙」
 ギュッ、と彼女の両手を握った輝晃がホッと息をつく。
「よかった」
「う、うん。別れろって言われてへんよ? 付き合いは認めてくれてるみたいやし」
 こくこく、と頷く小槙の鈍さは折り紙付きだ。
 ふん、と輝晃は当然のようにふんぞり返ってソファに座る。
「当たり前や。小槙を連れ去っておいて タダ のワケがない」

 社長、吉原こと皇〔すめらぎ〕の意図を 正確に 理解していた輝晃は、不機嫌に言って「結婚も認めてもらわな割りに合わん」と静観する彼と向き合った。


 >>>つづきます。


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