小槙と泉所長が病室を出て廊下に出た時、追っかけるように祐介がやってきた。
「弁護士さん!」
少年の言う「弁護士」が誰なのか、ボスはわかっていたから立ち止まらなかった。
小槙は立ち止まると、首をかしげる。
「どうしたの?」
めずらしくモジモジしている彼を不思議に思って、身を屈める。
つい先ほどわんわんと泣いたせいもあって、赤くはれた瞳は、しかし事務所で見た時よりも ずっと 幸せそうだった。それだけで、小槙は嬉しい。
すると、彼は耳にコソコソと何事かを囁いた。
そして。
「だから、自信もっていいから」
と、今までで一番の輝くような笑顔で、絶句する小槙に手を振った。
病室に戻っていく少年を見送って、「そんなんで自信持ってもなあ」とポツリと呟いた。
「そんなん、って何?」
いきなり背後で響いた、いるはずのない声に小槙は固まった。
「なあ、聞いてる? 小槙」
深くかぶった帽子にサングラス。
芸名・八縞ヒカルこと本名・馳輝晃は小槙の前に回りこみ、しゃがんだ彼女を見下ろした。
自分も同じように足を折り、頬杖をつくと「なあ、なんで真っ赤なん? アイツに何言われたんや」と面白くなさそうに訊いた。
そして、小槙はと言うと。
「輝くん!」と目の前の彼に抱きついていた。
〜 blog4‐3 〜
連行されるように、輝晃に野田の運転する車の後部座席に乗せられた小槙は慌てた。
「輝くん、待って! わたし、まだ仕事の途中やし」
「所長には連絡済みやし、了承ももらってる。小槙、最近休んでないんやろ? 休ませてやってくれって頼まれたわ」
「……そんなこと、あらへん」
と、反論しながら小槙は自分の方が分が悪いことを自覚していた。
輝晃のことを考えないために、仕事に没頭していたのは、確かだ。
「忙しかっただけやもん」
「そうか。まあ、小槙が元気やったら俺はええけど……忙しかった仕事って、あの先刻〔さっき〕の男の子のこと?」
「うん。証人も現れたし、あの子のお父さん重い罪にはならんと思う」
心から嬉しそうに言って、小槙は隣の輝晃をうかがう。
「輝くんは? 仕事、忙しいんやないの?」
前の運転席でステアリングを操るマネージャー・野田を心配そうに見つめた。
野田はフロントミラーで笑いかけ、小槙を安心させようと答えた。
「今日は、ひとつ撮影の予定がキャンセルになったんで時間が空いたんですよ」
「そういうこと。だから、安心してよ」
「……じゃあ、まだ忙しいんやね」
しゅん、とうなだれる小槙を輝晃は抱きしめたいと思った。
しかし、ここには野田がいるし……もちろん、野田がいても抱きしめたい時は抱きしめるが……今日はたぶん、きっと自分の歯止めがきかない。
マネージャーの目がある中、小槙とカーセックスなんてするワケにはいかなかった。
( 野田さん、邪魔やな )
と、輝晃が思っているのを気づいているのか、野田は輝晃のマンションまで送ると「明日の朝、六時半に迎えに来ますから」と言い置いて、帰っていった。
「小槙」
時刻はまだ、夕刻を指した頃だった。
ベッドで抱きしめた彼女はやわらかくて、いつになく激しかった。
ベッドで上になった小槙に、輝晃は訊いた。
「そういえば、さ。訊いたことなかったけど……小槙って、なんで弁護士になったんや?」
「え?」
熱くなった身体に汗を浮かべて一生懸命だった小槙は、突然の彼の問いに一瞬、頭が回らなかった。
折しも、そういう最中に彼は下からとめどなく快楽を送り続けるから、思考が飛ぶ。
「あんっ、ちょっ……輝くん! やぁっはん」
うっとりとした小槙のふるえる姿態に満足そうな笑みを浮かべて、輝晃は続ける。
「小槙、答えて」
「あっ!」
わざとらしい彼のやらしい動きに、小槙は責めるように睨んだ。
脇と腰の後ろに廻された輝晃の手のひらに、動きを促されて身体が勝手に応えるから困る。
「あか、んて……止めてくれな、答えられ……へ……」
あ、と小槙は止まった彼に思わず不服な声を上げてしまって恥ずかしくなる。
裸で彼の上に乗って、胸のふくらみの先の実は熟れて固くなってて、身体はそんな話をしているに相応しい状態ではないのに。
(なんで、輝くんはこういうことを、こういう時に訊くんやろう?)
信じられなかった。
彼女の表情に、くすくすと笑う輝晃も余裕があるワケではなく、むしろつらそうだった。
小槙の身体が、彼を包んで苛んでいる。
「――ホラ。これで答えられるやろ? なんでなん」
「 ……悲しい思いをしてる子どもを、少しでも助けられたらなあと思て 」
輝晃の胸に手をついて、滑らせる。
大人の世界に振り回される子どもは、少なくない。
少しでも、そんな子どもの力になれたらいい――と思った。
くすぐったい小槙の手を止めて、輝晃は彼女の瞳をとらえた。
「それって、俺の家庭の事情が関係してる?」
輝晃の家は母子家庭だ。小学校の半ばで両親が離婚して苗字が変わった。
「分からへんけど、そうかも……」
と言っても、気づいたのはつい最近だった。
小学校の頃、輝晃の家庭の事情はいつの間にか入っていた事実で、気がついたら当たり前のこととして受け入れられていたから、中学の頃にはことさらに語られることもなくなった。
「うちのお袋の場合、当初は少し荒れてたけどな。今はそんなことも笑い飛ばすくらいやし、気にするほどでもないんやけど……小槙が俺のために 仕事 選んでくれたんやったら、嬉しいわ」
「……だから、分からへんって言うてるのに」
なんとなく認めることが気恥ずかしくて、小槙は言いよどんだ。
「ええから。そういうことにしとき」
有無を言わせずに命じて輝晃はおもむろに起き上がると、喘ぐ彼女の身体を抱きしめた。
M字に立てられた膝を大きく開かせて、深く繋がる。
「あんっ」
彼の首に腕をかけ、抱きついて身体を揺らす小槙の胸の谷間に顔を埋めて、赤く熟れたサクランボをとらえる。
丘で揺れるそれを歯でかじり、その刺激だけで小槙はたまらない声を上げた。
もう片方を手で弄び、膝裏を通した方の手を背中に廻す。
引き寄せられる。
ギリギリまでやってきて、繋がった場所の熟れすぎた果実が擦れ、やらしくぬかるんだそこを湿った音が行き来する。止めることができない卑猥な音。
止めたくない。
「あっ、あっ……あかん。もう」
「ええよ、いく? 気持ちええやろ?」
「うん、あっ、でも……一緒に……」
請うように輝晃を見つめる小槙の顔に、煽られる。
「はぁ、あ……」
「 いきたい? 小槙 」
訊くと、素直にコクンと頷く彼女が可愛くて。
「 俺も―― 」
輝晃も優しいキスを贈って、素直に認めた。
どこまでも、きみと一緒に――。
>>>つづきます。
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