八縞「舞畠さん? 努力家ですね。俺がいい加減だから見習わないとって思います(笑)。」 記者「異性としてのタイプとしてはどうですか?」 八縞「異性として? それって俺に対する挑戦ですか? そうですね、好みのタイプかと訊かれたら好きなタイプかもしれません。」
記者のぶつけた質問に、意味深に答えてくれた八縞さん。相手役・美波さんとの関係は良好とのこと。
舞畠美波と自分。
「共通項が見当たらん……輝くんの好みって一体……」
「いずみ弁護士事務所」の扉が開いて、ボスこと泉千鶴所長がクライアントとの面会から帰ってきた。 「お疲れさまです、ボス」 「ただいまー」 やれやれ、と上着を脱ぎながら間の抜けた返事を返した彼は、事務所入り口のそばにあるハンガーに帽子と上着を掛けると中に入ってきた。 そうして、一緒に入ってきたのは小学生くらいの男の子だった。 今回のクライアントは、酒気帯び運転で事故を起こした男性だった。夜中の車同士の正面衝突。相手の助手席に座っていた女性が亡くなっている……業務上過失致死傷と道路交通法違反に問われている 刑事裁判 だ。刑が確定すれば、損害賠償の民事にも影響するだろう。 事故を起こした時、クライアントは泥酔ではなかったものの微量の酒気を帯びており……周囲の話では飲酒運転の常習犯であったらしい。ただ、いつもは飲むと言っても一杯程度で傍目には素面〔シラフ〕に見えるほどの安全運転だと言う。 安全運転だから、飲んで乗っていいというものではないが――。 「どうでしたか?」 「ああ、まだ面会謝絶だ……」 「……そうですか」 この事故の当事者で事情を説明できるのは、相手側の運転手である榊真人〔さかき まなと〕だけだった。 そのために、榊の証言が唯一の証拠として検察側に渡っている。 彼の証言では、クライアントである高見健介〔たかみ けんすけ〕が信号無視をして走ってきたのだと主張している。現場は見通しのいいT字路で、直進する榊の車と右折する高見の車とがぶつかったのだ。 榊の車の助手席に座っていた恋人・波多野早智子〔はたの さちこ〕は即死した。榊真人は腕の骨を折る重傷を負ったものの、入院はしていない。 榊の車がスピードの出しすぎだったのも最悪の事態を引き起こした要因だが、酒気帯び運転をし現在、意識不明の重態である高見健介の責任は重かった。 高見健介の弁護を引き受けた事務所の旗色はすこぶる悪い。 「高見さん本人から事情を聞くことができたら、突破口が開けるかもしれないが……」 面会謝絶の今は、難しい。 「せめて信号無視をしたかどうか、確認できればいいんですけど」 時間帯が遅く、住宅街の道路だったこともあり目撃者は今のところ見つかっていない。 「 お父さんじゃない 」 唇を噛んで、少年は訴えた。 高見祐介〔たかみ ゆうすけ〕、クライアント高見健介のたった一人の肉親だった。
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