そうして、輝晃とコンタクトをとり、彼のマンションの部屋で待っていると、カチャリと鍵が開いてバタンと扉が乱暴に閉められる音が響いた。
小槙は玄関に迎えに出ようと立ち上がったが、彼の方が早かった。
急いで帰って来たらしい輝晃は、焦燥した眼差しで小槙の姿を確認すると、言った。
「 アレ、違うから 」
真剣な声に、小槙は今まで信じていなくて悪かったと素直に悔いた。
(輝くんは、こんなに違うて言うてたのに……週刊誌の方を信じてしまうなんて)
「ドラマの宣伝にもなるからって、否定も曖昧なままやけど……あの時は野田さんもおったし、向こうのマネージャーかておったし、ドラマの親睦会みたいなもんやったから、本当は共演者やスタッフも大勢いたんや」
ごめん、と謝って輝晃は小槙を抱きしめた。
「俺が不注意やった、あんなんにハメられてしまうやなんて……誓って、キスなんかしてないから」
「ホンマに?」
「うん、あの角度やとしてるように見えるけど、あの女が抱きついて来ただけやねん」
間近にある真摯な瞳に、小槙は「わかった」と頷いた。
ホッ、とあからさまに輝晃は緊張を解いた。
「 もう、おまえをこんなふうに抱かれへんと思た 」
〜 blog3‐1 〜
「わたしも……輝くん、週刊誌のほう信じてしもうて、ひどいこと言うたの。ごめんね、許してくれる?」
小槙が小さく許しを請うて、輝晃はくすくすと笑った。
「もちろん許すに決まっとる。けど、まあ、確かに「会いとうない」って言われた時はショックやったけど……このまま、会わずに終わるんかなって」
そんなことには 絶対 しない自信はあったが、とりあえず彼女には主張しておこうと輝晃は考えた。
「う。ごめん……わたしも別れ話になるの怖くて」
「そうやと思たけど。なあ、小槙?」
「うん?」
輝晃が小槙にキスをして、背中を抱く腕に力をこめた。
「このまま、シテいい?」
スッと小槙のスカートからブラウスを取り出して、中に入ると素肌に指を滑らせた。
ぞくり、と肌が粟立った。
「いい、けど……このままって、どういう意味?」
「服着たまま、立ったまま、電気つけたまま、ココでって意味。久しぶりやから我慢できそうにないわ」
小槙は青くなって、暴れた。
「いやや、いやや! それはイヤッ。せめて普通にベッドでシテよー!」
と、彼を睨んだら輝晃は笑っていて、からかわれているのだとすぐに分かる。
顔が一気に熱くなる。
「もう、もう! 知らん。帰る!!」
が、逃れようにもシッカリと抱きしめられていて、叶わない。
「輝くん、放してよ!」
「あかん。我慢でけへんのは嘘やないから……ベッド行こ」
とびきりの笑顔で誘われると、抵抗できなかった。
「何してもカッコいいんやもん、ずるいわ」
ベッドに運ばれて、押し倒された小槙は恨めしげに彼を見上げた。
*** ***
二度と戻って来ないかもしれない、と思っていた小槙を抱いて、身体を繋ぐとホッとする。
薄い膜越しに感じる、彼女の内壁は輝晃をせつないほど熱く締めつけてくる。
「不安にさせてもうて、ごめん」
汗で湿った小槙の髪を指で梳いて、そのたまらなく潤んだ瞳を露にする。
荒く吐く吐息に、上気した肌は朱に染まる。
ゆるやかに漂いながら、洩れる声。
「ええ。輝くんを信じへんかった、わたしが悪いねん」
あっ、と彼にすがって、小槙は輝晃の動きの変化に順応する。
啼く口を塞いで、貪るようにキスをすると、彼女の中が鋭く収縮して声ならぬ悲鳴を上げた。
「んんっ!」
「……っくぁ」
ほぼ同時にもって行かれて唇を離すと、互いに空気を求めて胸を上下させた。
手早く後始末をしてから向き合ってベッドに転がり、輝晃は照れる小槙の足に自分の足を絡めて、腕を彼女の腰に廻した。
片方の手は、いつもの場所というか――小槙の胸をもてあそぶ。
そんな彼の手を睨み、それでも嫌がるワケではなく、彼女は恥じらいながら密着した。
大好きな人の肌の体温をじかに感じて、幸せそうに微笑む。
「でも、なあ? 小槙。どういう心境の変化やったん?」
「え?」
「おまえ、俺が電話で何言っても 全然 聞く耳持たへんかったやん」
もちろん、嬉しいのは嬉しいのだが、釈然としないと輝晃は訊いた。
「ああ、うん。あのな、最後に輝くんから電話もらった時、わたし、友だちの結婚披露宴に呼ばれてて……高校の生徒会で一緒やった子やねんけど」
「うん」
「そこで、久しぶりに会長に会って……輝くん?」
見るからに険しくなった輝晃を見て、小槙は慌てて弁解した。
「ちゃうで、ホンマに会って話しただけやから。いや、あの……わたしと輝くんが付き合〔お〕うてるってバレてもうたけど」
小槙は必死になって釈明したが、口にすればするほど不利になる気がした。
さらに険しくなった輝晃の視線が怖い。
「バレたって、なんでや?」
「あの、輝くんとケンカしてる電話聞かれてもうて……会長、なんか鋭いねん」
ごめん、と小さくなって謝る小槙に、輝晃は自身の狭量さにため息が洩れた。
「まあ、ええわ。で、坂上会長はなんやて?」
「週刊誌を信じるより、輝くんに直接会って判断しろて……だから」
「ふーん」
ということは、今回の仲直りは不本意だが坂上会長の功労が大きいらしい。
本当に、不本意だが――。
「小槙は、俺より坂上会長を信じてるんやな」
「え?! そ、そんなことないよ?」
否定はするが、どもっているあたりで かなり 怪しい。
「そういや会長、輝くんが高校の時からわたしのこと好きやったって、むっちゃ力説してたけど……なんかあったん?」
「いや」
というのは、嘘だけど。
「特別、何もなかったで?」
コレは、まあ嘘じゃない。したと言っても、睨むとか睨むとか睨むとか敵視するとかいう類のモノだ。
輝晃は小槙を抱く腕に力をこめて、ポツリと言った。
「 結婚、しようか? 」
>>>つづきます。
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