焼けと机と室と。 blog2-2


〜NAO's blog〜
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 亜矢子は見ていた携帯をパチン、と折りたたむと輝晃に声をかけた。
「ちょっと、休憩時間話があるんやけど」


「先輩、話って?」
 訝しむ輝晃に亜矢子は少し弱々しく笑って、「まだ好きやねん」と言ってきた。
「高校の時、別れてから……今まで、忘れたことなかったわ」
 涙を浮かべさえして亜矢子は訴え、「最後やから」と唇を寄せる。
 輝晃の腕は、彼女の涙に――つい、突き放すことを躊躇〔ためら〕った。
 昔のことが、亜矢子を 強く 否定することを拒む。
( 先輩。俺は―― )



〜 blog2‐2 〜


 触れる、瞬間だった。

 ガタ、と出入り口の小道具やらが置かれているトコロで物音がしてそっちを見ると、小槙が呆然と立っていた。
 輝晃は小槙に駆け寄って手首を掴む。
「 ちがうんや、小槙 」
 逃げるんじゃないかと、輝晃は掴んだ指に力をこめる。
「輝くん、痛い……」
 案外、普通に小槙は答えてさらに輝晃の不安を煽〔あお〕った。
(小槙? お願いや、顔を見てくれ……)
「おまえ、逃げるやろ。こうせんと」
「 逃げへん 」
 ふるふると首をふって、小槙は亜矢子の方を向いた。
「下凪先輩……わたし、今日は別れへんって言いに来たんです」
「そう」
「だって、輝晃くんが好きやから。輝晃くんと別れたらどうにかなってしまう……わたし、言うほど賢くないねん」
 ホッとした輝晃の手の力が緩んだ瞬間、小槙は彼を突き飛ばすとうるうるとなった目を背けた。

「輝くんの、アホ! 嫌いや!!」

 追っかけて来んといてや! と言い置いて、ダッシュする。
「あ。やっぱりや! 逃げんな!!」


 昔の彼女のことなど気にも掛けず、逃げた小槙を追っかけていく輝晃を眺めて、残された亜矢子は「あーあ」と天を仰いだ。
「アホなことしてしもた……バカップルの手助けするやなんて」
 昔、好きだった彼が寂しそうだったから、それを何とかしてあげたかった。
 高校の頃、騙した罪悪感もある。だけど――。
 一番の理由は、やっぱり横恋慕だったのかもと亜矢子は自嘲した。

 もし、小槙が簡単に別れると言ったら。
 あるいは、輝晃が少しでも亜矢子を気遣ったら。

 本気で獲ろうとしただろう。
 ずっとずっと好きだった人だから。
「アホやなあ」
 と、もう一度呟いて、忘れたはずの「涙」を拭いた


*** ***


 階段を駆け下りる小槙に追いついた輝晃は、彼女の手首を掴むとそこにあった道具室に引きずりこんだ。
 ガチャり、と内からシッカリ鍵をかける。
 舞台練習用のマットやシートを巻いて置いたところに、暴れる小槙の身体を押しつけて自由を奪う。
「誤解や、言うとろうが!」
「嘘や! 輝くんは嘘つきやもん!! アホっ」
 ジタバタと暴れて、小槙は目に涙をためて 強く 彼を責めた。
 彼女にしては容赦のない語気に、輝晃は目を瞠り……嬉しさのあまり笑うのを堪えきれなくなる。
 強く抱き寄せ、セミロングの髪に口づけた。
「笑うトコロちゃうちゅーねん!」
 動く小槙の足を手で抑え、「ごめんて」と輝晃は謝った。
 涙をこぼした彼女の頬は濡れて、むぅっと唇を尖らせる。
「なんやねん……ヨリはもどらへんって言うたやん」
「だから、誤解やて。ヨリはもどしてへん――ただ」
「ただ? なによ……」
 きゅっ、と小槙の身が固くなって輝晃は愛しくてたまらなくなる。
(可愛すぎや……)
 意地悪く笑う自分がいて、困った。
(苛めるつもりはないんやけどなー、俺)
「わたし、別れへんよ! だって、輝くんのこと好きやもん……まだ、こんなに――ッ」

 輝晃は小槙の喋る口に唇を重ねて、黙らせる。

 ビックリした小槙は大きく目を見開いて、唇が離れると真っ赤になって怒った。
「な、なんやの! わたしは本気で……誤魔化されへんで!!」
「誤魔化してへん。俺は先輩に 負い目 があるんや」
「負い目?」
 訝しく眉根を寄せて輝晃の顔を仰ぐと、小槙は首をかしげた。
「そう。高校の時、先輩を傷つけたから……俺と先輩が付き合ってたのは知ってるやろ?」
 コクン、と頷く。
(そんなこと、わざわざ確認せんでもいいのに)
 と、締めつけられる胸の痛みに彼が恨めしくなる。
 小槙のそんな心の内を知ってか、さわやかに笑われた。
「まあ、怒らんと聞いてよ。アレは、先輩を小槙の代わりにしとってん」

( は? )

 と、小槙は意味が分からなかった。
「わたしの? わたし、あんな美人とちゃうで。全然似てへんやん」
 本当にぽかん、とした小槙の的を外した問いに輝晃はぷっと吹きだした。
「ちゃうて。あの頃な……おまえ、生徒会長と付き合うてるって噂になっとって、俺諦めようとしとったんや。それで、先輩が小槙を演じてくれる言うたから――」
 小槙はもう、ビックリしすぎてどう反応すればいいのか、分からなかった。
 呆然と、首をふる。
「 わたしが、坂上会長と? 付き合うって、どこに行った話なん? 」
「そうそう。あの時もおまえ、そう答えたわ」
 さも懐かしいと、輝晃は目を細める。
「まあ、つまりはガセやったんやけど。それで、先輩とは別れたんや」
 ちょっと、それって……小槙はクラクラした。
 自分の知らないところでそんな噂があったのだけでも、十分 衝撃的 なのに……それで、輝晃と亜矢子がくっついたり別れたりしてたなんて。

「輝くん、ひどい」

「せや。だから、負い目やって言うてるやん」
「って、なにしてるんよ?」
 小槙のスーツの前を開いて、ブラウスのボタンを外しにかかっている輝晃の手に、気づいた。隠そうと試みるが、彼の手に邪魔されて、自分の胸元なのに寄りつくことができない。
「だから、先輩とヨリがもどることはないって 誤解 解けたやろ? 仲直りしよ」

「 アホっ! 」

 と、小槙は輝晃の広い胸を拳で叩いた。
 ビクともしない。
 目が潤む。
「アホ、アホ、アホ、アホっッ、輝くんのあほぅ!」
 ポカポカと叩いてふり上げた拳を伸ばし、彼の首にすがりつく。
 ギュッ、と目を閉じると残っていた涙が、流れた。
「もう、キスしたらあかんで?」
「わかってる。つい、油断してしもうて……」
「――キス、以上なんか 絶対 許さへん」
 くすり、と輝晃は笑って、彼女の頬を流れる涙を拭った。
「了解。小槙が相手してくれたら、問題ないわ」

 暴れる足を抑えていた手が太腿をさすり、そのまま上に滑ってスカートの中に入った。


 >>>つづきます。


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