Little Kiss Magic


Healing Love
■著作権は、朝美音柊花さまに帰属しています■
こちらの 「Little Kiss Magic」 は、「Healing Love」の管理人さまである
朝美音柊花さまが相互リンクの記念といたしまして、贈ってくださいました
【ホタルの住む森(前サイト名)】50000Hits&【月夜のホタル(前サイト名)】30000Hits MemorialFreeNovel でございます。
ちなみに、 続編 もいただきました。ありがとうございまーすっ♪



いつもの道。いつもの角を曲がると、いつもの通り君がそこにいる。

友達と楽しそうに笑いながら歩いている君。

その姿を見つけるとほっとして、それから頬が緩んでくる。

そんな僕を見つけて、君はいつもの通り声をかけてくる。。

「あ、浅井君おはよう。今日の英語の宿題やってきた?後で見せて欲しいんだけど。」

……やっぱりね。今日も彼女は宿題をしていないらしい。

毎朝、必ず聞かれる事。そして毎朝彼女は僕の宿題を写している。

これってやっぱりいい様に使われているんだろうな。


でも…


でもやっぱり僕には彼女が眩しくて、こんな事でもないと話すきっかけさえも浮ばない。

どれだけ勉強が出来たって、女の子と気軽に楽しい会話を出来るタイプではない僕は、モチロン女の子と付き合ったことなんて皆無だ。

だから、クラスでもかわいいと人気のある 秋山香織(あきやまかおり)にこうして声をかけられるだけでもドキドキする。

彼女はクラスでも一番人気だからね。

ホントなら僕なんて相手にされるはず無いんだ。

彼女が僕に声をかけるのは、単に宿題を写したり勉強を教えて欲しいからなんだってわかっている


だけど…それでもいい。


僕は彼女が、香織が好きなんだ。

この気持ちに気付いてから、いや多分気付く前からいつの間にか彼女を目で追っていた。

いつだっていつの間にか僕の視界に香織が入っている。

いつも笑顔の彼女だけどその笑顔に幾つか嘘の顔がある。

そう、僕は彼女の笑顔が本当に笑っていない事に気付いた。

何故・・・。何故無理して笑うんだろう。



香織…君は何を心に閉じ込めてその笑顔で隠しているんだろう。




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浅井 廉(あさいれん)。クラスでは目立つ存在ではないけれど成績は一番の彼。

クラスでは存在感の無い彼だけど、本当は頭が良いだけじゃなくてスポーツだって結構できるし、男子同士だと結構冗談なんかも言ったりするのをあたしは知っている。

…もっと注目されてもいいはずの存在なのに…。

顔だって本当は悪くないのよ。髪型に気を使ってあのハリーポッターみたいな形の瓶底眼鏡さえ止めたら絶対女の子がほっとかないと思う。

毎朝彼と挨拶をするたびドキドキするの。

宿題を教えてなんて本当は口実。彼と話したいからわざと忘れてきているの。

同じクラスになって最初に隣りの席になった彼。出席番号が2人とも1番で、日直とか男女ペアで組む事があると必ず彼と一緒になる。

最初は見た目はパッとしないけど優しくて頭のいい男の子って感じだったんだけど…。気付いたらいつでも彼を目で追っている自分がいた。

友達は趣味が悪いって言うの。ひどいよね。彼の事見かけだけで何も知ろうとしないくせに。

まあ、あの眼鏡にボサボサの髪型じゃね…誤解されても仕方ないのかもしれないけど。

あの厚い眼鏡にガードされている彼の本来の顔を知る人は少ないと思う。

彼は…凄く綺麗な瞳をしているの。とても優しくてとても純粋な瞳を…。

偶然眼鏡を外した彼の瞳を見たとき全身を雷が駆け抜けるような衝撃があって鳥肌が立った。時間が止まったかのように彼しか見えなくて周りの風景も音も、彼以外のもの全てが動きを止めていたのを覚えている。

眼鏡を外したら超美形って話は漫画でよくある話だけど、彼は美形と言うよりハッとする魅力があるって言うのが正しい言い方のような気がする。

凄く人を惹きつける綺麗な瞳。
それから彼の瞳が忘れられなくて…

彼の瞳を覗き込んで勉強を教えてもらう朝の僅かの時間が大好きになって…。

目を細めて笑うふとした表情も、ボサボサの髪に益々くしゃくしゃにするように髪をかき回す癖も、時々視線が絡んだ時に見せるドキッとするような色っぽい表情も…。

気付いたらいつの間にか大好きになっていた。

浅井…廉。廉くん…廉……あなたが大好き。

思いを伝える勇気も無いあたしだけど…あなたが勉強を教えてくれる僅かな朝の時間だけはずっとずっと大切にしていたいの。

この想い…いつか伝える事が出来るのかな。

そのとき廉君はあたしを受け入れてくれるのかな。




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長い睫毛をやや伏せ気味にして「ん〜〜?」と問題とにらめっこしている香織。

カワイイよなぁ…。

パッチリとした二重の大きな目に長い睫毛、化粧をしている訳でもないのに、透き通るような綺麗な肌にほんのりとバラ色の頬。ぷっくらと形の良い唇を突き出してふてくされた様に僕を見つめてくる。

そんな顔しないで欲しいんだけどね。

君への想いが顔に出てしまうと困るだろう?心臓がバクバクと鳴って五月蝿いのを君に聞かれやしないかと心配だよ。

「何、わからないの?」

そう言って彼女のノートを覗き込む僕。距離が一気に縮まってふわっと彼女の甘い香りが漂ってくる。

うわ…いい香り…。何だろうコロンかな、シャンプーの香りだろうか?

どっちにしても僕にはいっぱいいっぱいで…もうこれ以上教えられそうにも無かった。

これ以上彼女といるのが辛くて…。

これ以上彼女といると、もっと好きになってしまいそうで、自分の気持ちの暴走を止められなくなる。

もう…ムリだ。これ以上は限界だよ。

想いを伝えたくなってしまう。

君に迷惑をかけてしまう。

君には不釣合いなこんな僕が君に告白したら君はどんな顔をするんだろう。

困るんだろうか。…いや、『冗談でしょう?』って笑うかもしれない。

そんなことになったら…きっと立ち直れそうに無いよな。


もう…こんな事はやめたほうがいいのかもしれない。

僕が君に期待してしまう前に…


「ごめん…秋山さん。僕、もう君に教えてあげられないよ。」

「え…。浅井君…?」

「こうして教えるの…今日で最後にしたいんだけど。」

彼女は何ていうだろう…。あっそ!何て冷たく言われたらかなり凹みそうだな。
そんなことを考えながら彼女の様子を伺いつつ返事を待つ。


……次の瞬間、僕は信じられないものを見た。


彼女の瞳に大粒の涙が溢れ始めた。
驚いて確認するようにまじまじと彼女を見つめる。

「ど…どうしたの?そんなに問題難しかった?」

何をとんちんかんな事を言ってるんだろう僕は。でも、彼女の涙の理由がわからない。

何故?まさか、彼女は俺の言葉で傷ついた?

まさか……。

自分の言葉が彼女を傷つけるなんて思いもしなかった。彼女はもてるし、僕の存在なんて宿題を教えてくれるクラスメイトくらいだろうから。

でも、彼女の唇から出てきたのは信じられない言葉だった。


「ごめん…なさっ…。あたし、浅井君の迷惑も考えないで毎朝教えてもらって…浅井君に迷惑かけてしまって…。本当にごめんなさい。」

彼女の瞳からポロポロと大粒の涙が流れ出して止まらなかった。

何で泣くんだ?これじゃ僕が彼女を泣かしているみたいじゃないか。いったいどうしたらいいんだ。

「あたし毎朝浅井君と勉強できて嬉しかったの。廉くんの気持ちも考えないでひとりで楽しみにしていたりして…ごめんなさい。」

どうしていいかわからずにオロオロしている僕に香織は信じられない言葉を残して教室を出て行ってしまった。


楽しかった…僕と毎朝過ごすのが嬉しかった…?楽しみにしていただって。


あれ…?彼女は何て言った…『廉くんの気持ちも考えないで』って…僕の事『廉』って呼んでたよな。 …どう言う事だ?

まさかとは思うけど、香織にとって僕は単なる『都合のいいクラスメイト』なんかじゃなかったって事?


自惚れかもしれない。


彼女の事が好きだから、勝手に自分の都合の良いように思い込もうとしているのかもしれない。


だけど…もしも香織も同じ気持ちでいてくれるとしたら?


万が一、香織が僕の事を少しでも好きだと思っていてくれたら?


ごちゃごちゃ考えている場合じゃない。そう気付いた僕は彼女を追って駆け出していた。


彼女に謝らなくちゃいけない。


僕の気持ちを伝えなくちゃいけない。


後悔したくないよ。君を泣かせたまま友達にさえなれなくて終わるなんてイヤだ。


たとえ勘違いでもいい。


僕の事をなんとも思ってないと言われてもいい。



君の涙の訳を知りたい。




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涙が溢れて止まらなかった。

廉くんは困っていたと思う。あたしが急に泣き出して戸惑った顔をしていた。

そりゃそうだよね。誰だって、好きでもない女の子に毎朝宿題を写させてあげて、さらに勉強を教えて自分の大切な時間を割いてたら迷惑に決まっているよね。

ごめんね。廉君…。

何が起こったのかわからないという顔をしている廉君に『ごめんなさい…。』と言うのがやっとで、そのまま顔を見ているのが辛くて教室から駆け出してしまった。

涙をこれ以上彼に見られないように…。


どうしよう…絶対におかしいと思われているよね。

あんな事でポロポロ泣き出して…絶対に迷惑かけちゃったよね。


でも…あのままだと、きっと言葉にしてしまっていた。

「あなたが好きです」って…。



校舎の北側のあまり人の来ない場所まで来て座り込む。

この場所で初めて見たんだ。廉くんが眼鏡を外しているところ。

ちょうど木陰になる桜の木の下で眠っている彼を見つけたのは桜が花の季節を終え緑の美しい葉桜になった頃だった。

それまで、クラスでも目立たなかった彼なのに眼鏡を外した廉くんは何処か普段と違って見えて、何だか胸が切なくなるくらいに締め付けられてドキドキした。

普段の彼はもしかしたら本当の彼じゃなくて、もっと色んな顔を持っているのかもしれない。

そんな風に思えて、どんどん廉くんへの興味が膨らんでいく。

ボサボサの癖のある髪はそのままなのに、「もしかして人違い?」そう思ってしまうくらい彼の寝顔は本当に無防備で、幸せそうにうっすらと笑みを浮かべる彼の薄い唇に触れてみたくて…。



一瞬だけ掠めるようにキスをした。



一番驚いたのはあたし自身だった。
何故そんな行動に出たのか自分でもわからなかったから。


その時、彼がいきなり目覚めて目がパッチリ合ってしまった。
その瞳が凄く綺麗で、思わず引き込まれるように見つめてしまった。
きっと心を囚われるってこう言うことをいうんだと思う。

それまで以上に胸がきゅんって痛くなって、それから耳元に心臓があるようにドキドキと五月蝿く鳴り始める。本当に病気なんじゃないかと心配になるくらい苦しくて…
頬なんて熱があるんじゃないかと思うくらい熱くて、きっと真っ赤になっていたと思う。

そんな顔を見られたくなくて、何よりキスしたことを気付かれたくなくて、彼が眼鏡を手探りで探している間にあたしは慌てて逃げ出してしまった。

廉くんは眼鏡がないと世界がぼやけて見えるって言っていたから、あの時あそこにいたのはあたしだって今でも気付いていないみたい。

気付かれなくて良かった。

あのときのあたしの顔を見られていたら、この気持ちを知られてしまっていたかもしれない。

あの瞳を見た瞬間から…ううん、彼の寝顔を見た時からあたしは恋に落ちていたんだと思う。



胸が締め付けられるような痛みを抱えて、あの日廉くんが眠っていた場所に座ってみる。


もう何ヶ月も前のことなのにこの木の下で眠っていた廉君の伏せられた睫毛の長さも、静かな寝息も、薄く口元に浮かべた微笑も、昨日のことのように鮮やかに思い出すことが出来る。


あれから、彼と話したくて宿題を教えてもらうのを口実に毎日のように朝から彼に勉強を教えてもらっていた。
彼の迷惑も考えずに…。

あたし自分のことばかりでいつの間にか廉くんに迷惑かけてしまっていた。


「ごめんね…廉くん。」


小さな声で呟いてみる。胸が熱くなってやっと止まりかけた涙がまた、溢れ出してくる。



「失恋…しちゃった。あたし…。」


…廉くん…好きだったよ。




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「失恋…しちゃった。あたし…。」

小さな声だけど確かに耳に飛び込んできた、信じられない香織の呟き。


失恋…。香織が…誰に?

このシチュエーションで考えられるのは一人しかいないような気がするが、それって僕の自意識過剰ってヤツだろうか。

自惚れかもしれないと思っていたけど、本当に自惚れてもいいんだろうか。


こんな悲しい顔で涙を流している時でさえ、必死に笑顔を作ろうと努力している香織。

どうしてそこまでするんだろう。

どうして彼女はいつも笑おうとするんだろう。

君の笑顔は大好きだけど無理して作る苦しげな笑顔は辛いよ。


ねぇ、君の本当の笑顔が見たいんだ。


だから、ほんの少し勇気を出してみるよ。


君の顔を見るのは恥ずかしいから眼鏡を外してぼやけた君に声をかける。



「香織…君のその涙の訳を教えてくれないか。」



はっと息を飲み彼女が振り返るのが伝わってくる。

僕には彼女の顔なんて見えなくて、ぼんやりと輪郭だけが桜の木の下に香織が座り込んでいる事を教えてくれている。



そのぼやけた輪郭に、春の日の記憶が蘇る。



心地良い午後の日差しにうとうとした時、誰かが僕を見つめているのを感じた。


眠りの世界から僕を引き戻した一瞬唇に掠めるように触れた柔らかいもの。
誰かがとても優しい笑顔で僕を見つめているのを視線で感じる。

この香り…この雰囲気…もしかして同じクラスで隣りに座っている秋山香織ではないかと感じてうっすらと目を開けた。


彼女は慌てて身を引いてしまったので顔はやはりぼやけたまま確認する事は出来なくて、すぐに眼鏡をかけて彼女の姿を捜してみたけれど、もう彼女はいなかった。


あれがただの夢だったのか、それとも現実だったのかずっとわからなかった。


ずっと気になっていたんだ。もしかしてあれは夢なんかじゃなく本当に香織だったんじゃないかって。


この場所に座り込んでいる彼女を見て確信する。

あれは…やはり香織だったんだ。


あの日、瞳を閉じでいても注がれる視線で感じるほど、彼女が凄く優しく微笑んでいるのがわかった。

彼女の笑顔が見たい。

彼女の本当の心からの笑顔が見たい

あの日の微笑を感じるだけじゃなく、この目で確認できる距離で見てみたい。



「ゴメン。僕が君を傷つけたんだね?僕は…君のそばにいるとドキドキして冷静でいられなくなる。君に勉強を教えてあげると言いながら、本当は君の笑顔を見たくてそればかり考えてるんだ。勉強を教えてあげるふりをして、君を盗み見ているなんて…サイテーだよね。」

ああ、これで嫌われてしまったかな。

でも、後悔しない。

ちゃんと僕の気持ちを伝えるんだから。



「君が好きだよ香織。迷惑だって思われるかもしれないけど、僕はもう君への思いを抑え切れなくて…。ごめん。自分の気持ちを振り切りたくてあんな事いったんだ。君が傷つくなんて思わなかったんだ。本当にごめんよ。」

君の顔を見たくて一歩また一歩と近付きながら君の返事を待つ。

君は許してくれるだろうか。こんな冴えない僕が君を見つめている事を…。



「酷いよ…浅井君。そんなのずるい。」

「ずるい…?」

「そうよ。あたしのほうが先に廉君を好きになったのに、廉君が先に告白しちゃうなんてずるいよ。」

香織はそう言って溢れる涙を擦ってから、怒ったように僕に向かって進み出た。

距離が縮まり、香織の輪郭がはっきりと捉えられる距離になってようやく香織の口元が微笑んでいるのがわかった。



ああ、この笑顔だ。


僕の目の前に立ち柔らかな笑顔で真っ直ぐに僕を見つめてくる。
どんな時も笑顔の君だけど本当の笑顔を僕は知っているよ。
苦しげな切なげな笑顔はもう見せないで。
無理に笑う必要なんてないんだ。

君はほら、僕の傍でこんなにも自然に幸せそうに笑ってくれる。

心の迷いに言葉を詰まらせた僕の背中を香織の笑顔が押してくれたような気がする。
その微笑につられるように僕はずっと前から心の奥深くで望んでいた言葉を初めて口にした。



「香織…僕とつきあってくれる?」




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廉君の声があたしの想いを包み込むように胸に染み込んでくる。

ずっとずっと好きだった。

あの日この場所で眠っていた彼にそっと唇を寄せたときから


耳に届く彼の言葉がまるで夢の中の出来事のように遠くに響く。

現実なのだと確かめたくて、彼の元へと歩み寄ると手を伸ばしその腕に触れた。

廉君の温かい体温と、緊張の為か腕から伝わる僅かな震えがこれを現実だと教えてくれた。

悲しみの涙が幸せの涙に代わるのを感じる。

心があなたを求めている。

「あたし…廉君が好き。春にここであなたを見かけてからずっとずっと好きだったの。」

あたしは廉くんに微笑んでいられたのかしら。

あまりにも嬉しくて涙が止まらなくて…あたしの表情は泣き笑いだったに違いない。

触れた先から二人の胸の鼓動が伝わり頬が熱くなるけれど、互いの鼓動が同じリズムを同じ速度で打っているのを感じて心が満たされていくのを感じる。

緊張で僅かに震える指があたしの身体をふわりと抱きとめてくれた。

とたんに心がもっとあなたを知りたいと騒ぎ出す。

あなたが好きです…廉君。あなたをもっと知りたい。



もっと…好きになってもいいですか。




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「香織…僕とつきあってくれる?」

僕の言葉を待っていたかのように、彼女は僕が今までで見た一番の笑顔を僕にくれた。
その笑顔に桜の木が秋だという事を忘れ全ての花が一斉に芽吹いて満開になったかのような錯覚を覚える。


この笑顔は僕だけのために向けられている。君の心は今、僕だけを真っ直ぐに見つめているんだね。

「あたし…廉君が好き。春にここであなたを見かけてからずっとずっと好きだったの。」

ふわりと手を伸ばし僕に触れてくる香織。

触れた先から二人の胸の鼓動が伝わり頬が熱くなるけれど、互いの鼓動が同じリズムを同じ速度で打っているのを感じて心が満たされていくのを感じる。

緊張で僅かに震える指が君の身体をふわりと抱きとめる。

まるで生まれたての子猫を抱いているように柔らかで不安定で、こんな危うい君を心から護ってあげたいと思う。

心の奥から強い思いが込み上げてきて、震えていた指が静かに治まっていく。

君を抱きしめる。ただそれだけで僕を強く変えていく何かが、君にはあるんだろうか。

「あなたをもっと好きになってもいい?ずっと好きだって言えなかった分取り戻したいんだけど。」

そう言って僕を見上げてくる輝かんばかりの君の笑顔が眩しくて、柔らかな頬に手を添えると彼女に負けないくらいの思いをこめて微笑んでみせる。

「僕も君をもっと好きになってもいいのかな?いままで想いを抑えてきた分この想いが止まらなくなりそうで怖いんだけど。」

「いいよ、止めないで…。全部受け止めるから。廉君の想いはあたしの心で全部受け止めるから。廉君はあたしの想いを受け止めてくれる?」

「モチロン。どれだけでも受け止めるよ。君が僕の想い受け止めきれるか不安だけどね。」

「あたしのほうが先に好きになったのよ?受け止めきれないはずないでしょう。こんなにも…あなたを好きなのに…。」

擦れるように切なく響く香織の声に思わず感情を抑えきれず強く抱きしめる。

高鳴る胸の鼓動も、少し早い息づかいも、いつもより高い体温も全ては君の為だけに引き起こされる類稀な現象で…これを治めるのはたった一つの特効薬だけだって僕は本能で知っている。

香織の顎に指を添え上を向かせると静かに唇を寄せる。



想いに惹かれるように静かに唇を重ねるだけのkiss


溢れる思いに誘われるようにもっと触れたいと唇を啄むKiss


互いの想いを確かめるように求め合い絡めあうKISS



ふたりの鼓動が重なり想いを伝え合うたびに繰り返されるキス

どうして僕は君に相応しくないなんて思っていたんだろう。

香織とのキスの相性が僕たちの相性を教えてくれているじゃないか。



「香織のキス…好きだな。何もかも忘れてしまいたくなるくらい夢中になってしまうよ。」

唇を離す間も惜しくて触れたまま呟く。

「廉君がこんなにキス魔だとは思わなかったわ。」

キスの合間に甘い吐息と共にそう呟く君が愛しくて…何度もその可憐な唇を啄み堪能する。

「誰にでもって訳じゃない。香織限定だから…。僕の想いを受け止めてくれるんだろう?」

「うん…大好き。廉君。」

「僕も好きだよ。香織…もう、香織に溺れそう。」

「クスッ…溺れるって?」

「香織のキスの虜になった。もう、離れられない。」

「あたし以外の人とキスしちゃ嫌よ。」



予鈴が鳴るのがずっと遠い世界の事のように耳に届く。



「廉君…授業始まるよ…。」

「うん、そうだね…。行こうか。」

離れがたい気持ちを無理やり押し留めて唇を無理やり引離す。

心が引き裂かれるような寂しさを覚えるのは僕たちの気持ちが一つになったからだろうか。


指を絡め手を繋ぐ。

少し君を引っ張るようにしてその場を後にする。

…はずだったのに……


身体は無意識に動き、君の手を引き寄せそのまま腕の中に抱きとめていた。


「やっぱり離れたくないかも…。」



気持ちを確かめる様に触れるkiss


「優等生の浅井廉がサボっていいの?」


気持ちを伝える様に啄むKiss



「うん、いいんだ。今はこっちのほうが大事だから…。」


互いに想いを重ねる様に求めるKISS


サボった事なんて無かったけれど君と一緒だったらどんな事でもできてしまう新しい自分を発見できるよ。

優等生の浅井廉なんてもう要らない。

僕の中の新しい僕が君の手によって目覚めていく。

君のその微笑が僕の心を明るく照らし、鈴の音の様な澄んだ笑い声が僕の心の扉を開く。

君の隣りに相応しい男になるために僕は変わっていくのかな。




「今日の授業位聞かなくても差し支えないよ。」


そう言って香織の唇にもう一度思いを寄せる。


繰り返す事で伝わるのならば何度でも繰り返そう。


唇から伝わる熱で何度でも想いを伝えよう。



『君が好きだよ』



言葉で伝えきれない想いを唇に込めよう。


kiss


Kiss


KISS



初めて君の唇が触れたあの時から僕は君のキスの虜になっていたんだ


君の甘いキスの魔力の前には、ほら。


予鈴なんてすぐに聞こえなくなってしまうよ。




+++++     +++++     +++++




明日もきっといつもの角を曲がると、いつもの通り君がそこにいる。

友達と楽しそうに笑いながら歩いている君。

その姿を見つけるとほっとして、それから頬が緩んでくるのは僕。

そんな僕を見つけて、君は満面の笑顔で声をかけてくるだろう。

「あ、廉君おはよう。」

君は僕に向かって駆け寄ってくる。

それからこう聞くんだ。


「英語の宿題がんばってみたのよ。後で見てくれる?」


少しおねだりするように君は甘えて言うんだろう?


だから僕はこう答えるんだ。


「おはよう、香織。もちろんいいよ。…だけど」



―― お礼に甘いキスを忘れないでね。――



桜の木の下の小さなキス




きっかけのキスの魔法が僕たちの恋を静かに動かし始めていた。


fin.

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