女の子は強欲になる、のは当たり前だとして……浮気相手のわたしがこんなふうに独占欲を持つのはどうだろう?
〜 step.9 〜
今日は、この前の合コンとは違って同じ部署の仲間との打ち上げ会だった。
一つの大きなプロジェクトがまとまって、お互いを労うための純粋な飲み会だから気を遣う必要はないし、それなりにお酒も入って気持ちのいい夜だった。
もちろん、そんな楽しい夜でもイチと会えないのは寂しい。けれど、今夜は彼にも仕事ではない何か先約があったらしく「迎えにはいけないけど呑み過ぎないようにね」とのありがたいお言葉をいただいて忠実に酒量は抑えていたのだ。
だから、しっかりと目は冴えていた。
ううん、イチの姿を見間違うなんて酔ってたって絶対ないし!
しかも、その横にはわたしの知らない女性の姿がっ!!
楽しそうに、笑ってた……。
(イチ、ひどいっ)
そんなこと、全然言ってなかったじゃん!
なんで?
それならそれで、ハッキリ言ってくれたら……駄目だって言われたってくっついて行ったのにっ。
それが、イヤだったの?
本命の、彼女……だから?
「にのみやー、どした?」
突然、立ち止まったわたしに気付いて、どうした? とほろ酔い加減の仲間の一人が聞いてくる。
どうしたも、こうしたもないよ!
「わたし、三次会パス!」
こうしてる間にもイチと彼女は……いーやー! 断固阻止っ。
最近、男女のアレやコレやを経験したわたしの妄想はリアルすぎて、泣きそうだった。
絡み合う男女の姿は男の方がイチで、女が名も知らぬ先ほどの女性の姿に変わる。顔はよく見えなかったからおぼろげだけど……十分に現実的だった。
(イチ……イチ! ヤダよっ、やだっ。絶対 ヤダ!! )
「え……おいっ、二宮!」
びっくりした彼が駆け出したわたしの背中に向かって何か言った。けれど、わたしの意識はすでに雑踏に消えたイチにしかなく、泳ぐようにかき分けて二人を必死に追いかけた。
*** ***
急いで二人を探したけれど、その姿はどこにも見当たらなかった。
流れる人ごみの中でキョロキョロと辺りを見回し、絶望的な気分になる。そうして、そんな最悪な気分の時に限ってわたしは声をかけられるのだ。
もちろん、理由はハッキリしている。
「君、振られたの? 可愛いのに」
「さ、触らないでっ。振られてなんかないやい!」
そうだよ、まだ振られてもいない。告白さえしてないんだから……。
唇を噛む。
「強がってもダメだよ、泣いてるク・セ・に」
「………」
なんで、こう、わたしに寄ってくる男は 全然 空気を読まないの?
げんなりするんですけど。
絡んでくる男の腕に力の限り抵抗するけれど、相手は執拗だった。
わたしの肩を掴むと、顔を見ようと覗きこむ。そして、目を瞠る。
路上で泣いている女の子がいたからナンパしました、という軽いノリだったに違いない。
キッ、と睨み上げる。
「離して!」
「ニノ?」
ハッ、とする。
「イチ!」
振り返らなくても、声だけで誰かなんて愚問だった。
ナンパ男の腕を振り解いて、その声のする方へ走る。
涙でぼやけた視界でも迷うことなんて少しもなかった。だって、イチだもん。
「いちぃ……」
イチの匂いがする。鼻先をその首筋にくっつけてクンクンと犬のようにすり寄せる。
「なに? どうしたの?」
いきなり抱きつかれた彼は驚いたように問いかけて、その優しい響きにわたしはまた涙が出た。
「会いたかったの……」
「……ニノ?」
大丈夫? と彼はわたしの頭を撫でて、わたしの背中の方にいる気配に気付いたようだった。
「ああ。絡まれたの?」
「うん」
「僕の、彼女に何か用?」
これは、後ろにいる男へのイチの言葉……もっと、言ってやって!
全国ネットで宣言しちゃって!!
ぎゅぅぅぅぅぅう。
スッポンニノちゃんはもう絶対離さないよっ。そう、ゼッタイ!
「 一之瀬君 」
たとえ、彼女が呼んでもねっ!!
>>>つづきます。
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