「落ち着いた?」と覗きこまれて、「うん」と頷く。
ここは、駅近にあるシティホテルの一室。
スッポンニノちゃんは人間に戻って、ようやく会話らしい会話ができるようになりました。すでに終電はありません、ってことでホテルにお泊りすることになりました。
「ごめんね」
「いいよ、用事はほとんど終わってたし」
イチと会っていた女の人は、吉村さんと言って左手の薬指に結婚指輪がはまっていた。「一之瀬君」ってすっごく他人行儀に苗字で呼んでいたけれど、きっとホントはすっごく親しい間柄なんだと思う。
なんとなく。
コレは女の勘だけど!
ニノちゃんのイチに関する女関係の勘は、結構鋭いんだよ。特に、相手がイチに好意を持っているかどうかなんて目を見たらピンとくるんだからねっ。
あれは、雌豹の目だった。たぶん。
「用事って?」
訊いたらダメかな? と思ったけど、気になったらトコトン気になるもんね。我慢はよくない。
「挨拶だよ、彼女、もうすぐ仕事辞めるから」
「結婚で?」
「続けるつもりだったみたいだけど、旦那さんが気にしてるらしくてね」
肩をすくめて、イチは息をついた。
なるほど、と思う。
不倫なんて、確かに面倒な相手だよね。イチっぽくないけど……それくらい彼女を好きだったんなら頷けるよ。
『さようなら』
あの女〔ひと〕の最後の言葉は、イチへの別れの儀式だったのかな?
「じゃあ、寂しくなるね?」
わたしが気遣うように見上げると、イチはほんの少しビックリしたような表情になって、ふわりと笑う。
「そうだね、でも……僕にはニノがいるし」
〜 step.10 〜
「……え?」
それは、どういう? まさか、まさか!
「慰めてくれる?」
ギュッ、と腰を引き寄せられ悪戯めいたイチの目がすぐそこにあった。
欲望にクラクラする。
「当たり前だよっ」
慰めるに決まってる! わたし、超ガンバル!!
だから。
わたしのこと、もっと……見てよ。イチ。
「好きだよ……」
「……好き」
意を決して紡いだ告白が重なった。
え? とお互いに顔を見合わせて同時に確かめる。
「「 本当に? 」」
可笑しなほど声が重なって、二人で笑ってしまった。
まあ、重なっているのは言葉や声ばかりじゃないけどね……それこそ、あそこや胸や唇まで全部を重ねてるもん。
深く浅く接しているトコロの、擦れあう情熱が気持ちいいよ、イチ。
「好きだよ」
キスする合間に離れた、彼の湿った唇がもう一度言った。
「……もっと、言って?」
すると、イチは不満そうに返した。わたしの裸の胸を掴んで、やわやわと揉む。
先端を摘みあげる。甘く上擦った声が出ちゃう。
果実みたいに食べないで。
「ニノも言わなきゃ言わないよ」
「好きぃ」
躊躇いなんか、ない。言っていいなら、ずっと、息をするたび唱えるもの。この気持ちが、あなたと重なりますように――。
覆いかぶさって上下に運動するイチの切ない表情にときめいて、もっと、もっとと揺さぶられながら手を伸ばす。
「イチが、いちばん、好き……」
ねえ、ちゃんと届いてる?
イジワル、しちゃヤダ。
って。
目で訴えて、わたしはイチから言葉と一緒に両想いの証をもらった。
>>>おわり。
step.9 <・・・ step.10
|