夜の街の人ごみで、彼女を見つけた。
どうして。
こんなにたくさんの人の中から気づいてしまうんだろう? でも、きっとこれは 必然 なんだと思った。
目が、勝手に探すのだ。
華やかな君の、不器用な姿を――。
〜 step.5 〜
心細そうな背中に「ニノ?」と声をかけるとパッと振り返って、ドンと僕に向かって飛んでくる。
ギュッと僕の首に腕を廻して、首筋に鼻先をくっつけた。
「いちぃ……」
その声は震えて、スンスンと鼻を鳴らす。
泣いてる?
「なに? どうしたの?」
「会いたかったの……」
彼女は言って、また顔を埋める。
「……ニノ?」
頭を撫でた向こう側にいる見知らぬ男が、ニノを未練がましく眺めている。僕みたいな平凡な彼氏では、納得いかないのかもしれない。
残念だったね、ニノは 僕の だよ。
「ああ。絡まれたの?」
「うん」
「僕の、彼女に何か用?」
相手に見せつけるようにニノの背中を片手で引き寄せると、彼女も強く僕に抱きついてくる。
そのニノの必死の様子に男は諦めたらしく離れていって、ホッと僕は緊張していた体から力を抜いた。
と。
「一之瀬君」
背後で響いた声に、そういえば居たんだったと思い出す。
吉村和美〔よしむら かずみ〕は仁王立ちして、(わたしと付き合ってた時と違うんじゃないの?)と僕の対応を責めるみたいに睨んだ。
とは言っても、彼女ももう人妻だから本気ではない……と思う。
別れて一年は経ってるし、今日も彼女が仕事を辞めるからその話をしただけだった。
とりあえず、紹介くらいはするべきかな?
でも、なんて?
僕は、困ってニノを見る。絶対離れないもん、とでも言うようにしがみつく彼女にちょっと笑ってしまった。
付き合ってます、なんて紹介したらニノはどんな反応〔かお〕をするのかな。
試してみたい衝動に駆られた。
――結局、僕が紹介するよりも先に吉村さんが制止をかけて、別れの手を差し出す。
僕が握り返すと、笑って「さようなら、一之瀬君」とその指輪のはまった左手を振った。
*** ***
「好きだよ……」
もう、言ってもいいかなと思ったら口にしていた。
「……好き」ってニノの声と重なって、え? と互いに目を見合わせる。
「「 本当に? 」」
って。
それは僕が訊きたい、と彼女を見つめれば、嬉しそうにニノは抱きついてきた。
どこもかしこも触れ合っているやわらかな肌は何も着けていない上に、やっている最中なのだから煽られているんだろうなと解釈する。
「好きだよ」
深くキスをして、離した唇からまた言葉がこぼれていた。
「……もっと、言って?」
うっとりとしたニノはただ言葉に酔うように請うけれど、僕はすぐに不安になる。
先刻〔さっき〕の彼女の夢のような告白は、この行為に促された情熱だけなんじゃないかって……仕組んだのは自分のクセに、情けないけれど彼女にも気持ちを言葉にして欲しかった。
「ニノも言わなきゃ言わないよ」
なんて、ちょっとイジワルだったかな?
「 好きぃ 」
試した僕が驚くくらい、彼女はあっけなく答えてきた。
上擦ったやらしい声、なのに潤んだ目は純粋に僕だけをまっすぐに見る。
「イチが、いちばん、好き……」
( ニノ、それは反則じゃないかな? )
僕は。
これでも、付き合ってきた女の子に無理をさせたコトなんて一度もないんだ。
抱きつぶす、なんて行為があるのは知識として持ってはいたけど……まさか、自分がするなんてね。思わなかった。
下でニノが息も絶え絶えに喘いでいるのも、なんか、全然ストッパーになってないし。むしろ、角度がやらしくて僕は妙に凶暴な気分になる。
細い足首を持って、天井に掲げ、ニノと僕が繋がってる谷間を広げた。
僕のが杭みたいに刺さってる。
朦朧となった涙目と視線が絡んで、微笑む。
「僕も、ニノが 一番 好きだよ」
彼女の腰を浮かせて折り曲げ、体を前に深く刺しこんだ。
「あん、イチ……ぁ!」
ニノの声が、僕の耳で嬉しそうに跳ねる。止まらなかった。
朝、起きたらニノは起き上がれなくてルームサービスやシャワーの世話を僕が全部してあげた。体は辛そうなのに、終始彼女は幸せそうで……だから僕もついまた手を出して、結局もう一泊することになった。
もちろん、二人合意の上でね。
>>>おわり。
step.4 <・・・ step.5
|