互いの両親に挨拶をするため、五月の連休をつかって帰郷した僕とニノは当然というか、やっぱりっていうか? 駅に着いて早々元クラスメートの知り合いに声をかけられてしまった。
僕はともかく、彼女はそこにいるだけで目立つし……くわえて、この帰郷に合わせてニノは ソレ を狙っていた節がある。
いつもより少し派手めに服を選び、化粧も髪も気合いが入っていた。普段の1.5倍増しでキラキラしているのだから、黙っていても注目を浴びるのは当たり前で……公衆の面前でキスをすれば否が応にも相手に知られる。
何といっても、ここは 地元 で彼女は結構な 有名人 なのだから。
〜 jump.7 〜
「 わたし、結婚するの。イチと 」
声をかけられた最初、彼女は不機嫌だった。たぶんだけれど、声をかけられることを想定していなかったのだろう、と思う。
そんなワケないのに。
(まあ、ニノらしいけどね)
と、僕は少し癇癪を起こしはじめた彼女を落ち着かせて、振り返りがてら声をかけてきた彼らをよぉく眺めて思い出せるだけ思い出そうと努力した。
高校時代にニノに好意を寄せていた男は数多いから、彼女の上機嫌の言葉に悲痛な声を上げた彼らのフルネームまではとても無理だったけれどなんとなーく面影は浮かんだ。
えーと、確か隣のクラスの「シガ」と柔道部の「ウエノ」? だったっけ?
「一之瀬!!」
「うわっ」
元(?)柔道部の方に腕を引っ張られ、思わず前のめりになって彼ら二人に肩を組まれた。
「……なに?」
「結婚って、ホントーか?」
「本当、だけど……嘘をつく理由がないし」
「いや! 待て。ニノがおまえを選ぶ理由がないだろ?!」
……確かに、言い得ている。
が。
「シガとウエノ、だったっけ?」
相手に失礼は承知の上で、お互い様だと僕は見返した。
「それを、君らにとやかく言われる筋合いはないよ。悪いけど」
お互いムッとなりながら、そこは大人になった分別でそれ以上は深く突っ込まない。ただ、相手は僕から離れるとニノにやけに「同窓会」の話を持ちかけていたから、近々同窓会のハガキが届くのかもしれないとボンヤリと考えた。
「じゃあな」と彼ら二人は渋々僕らから離れていった。それと言うのもニノのご機嫌がすこぶるナナメになって、半ば「シッシッ」と追い払われたようなものだった。決していい心象にはない相手だけれど、野良犬のように邪険に扱われれば同情しなくもなかった。
「ニノ」
「だって! あの人たち 嫌い よっ」
プン、とそっぽを向いて頬を膨らませると、「イチを盗るんだもん」と唇を尖らせる。
「盗る、って……」
あれは、そんな雰囲気ではなかっただろう? 大体、彼らが気を引きたいのは君〔ニノ〕なのだから。
(妬くのは 僕の方 なんじゃないの?)
会話時間を考慮すれば、彼女とのやりとりの方が 絶対に 長い。
しかして、ニノにはそんな男心は関係なかったようだ。
「せっかくイチとイチャイチャしてるのに平気で 邪魔 するし、コソコソするし、しつこいし。もう、絶対! 口利かないっ」
宣言すると、彼女は僕に抱きついて「イチも利いちゃダメだからね!」とギュウゥと腕に力をこめた。
彼女の背中をポンポンと落ち着かせるように叩いて、息をつく。
「わかった」
僕からすれば、彼らと話をしてもしなくてもどちらでも構わない(得と損でいうなら損の方だし)。ほんの少し彼らが哀れではあるけれど、恋敵の僕がフォローするのも妙だ。
(あいつらの自業自得、なのかな?)
と、僕は早々に説得を諦めてニノの提案に頷いたのだった。
>>>つづきます。
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