イチがスキ。イチがスキ。イチがスキ!
心の中で唱えて、脱衣所の鏡に映る自分の姿に気合を入れる。
クルクルと巻いたような色素の薄い地毛に、卵型の輪郭、目は大きめで少し吊り目、ネコっぽいとよく言われるけど本当は嬉しくない。だって、気分屋だって言われているみたいなんだもん。
イチはわたしのこと、どんな風に思っているのかな?
好きだよ、とは言われたけど「どこ」が好きとは聞いてない。
高校の時のままだって思われていたら、悲しい。軽い女の子だって思われたまま付き合っているのだとしたら……体の関係もその延長だって思われてるかもしれないもの。
そうじゃない、ってちゃんと伝えなきゃいけない。
今夜のイベントが、そのチャンスだ。
イチの誕生日、用意にぬかりはない。イチのお姉さんのセンセにも助言してもらったし、ダイジョウブ。
ごくり。
わたしは、喉を鳴らして脱衣所を出る。少し、頬が熱かった。
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扉を開けると、わたしの方を見たイチが驚いたみたいに目を見開いた。
え? どこか、変かな。
まあ、お風呂から上がってこの服装もないか……と照れ隠しに笑ってみる。
「びっくりした?」
「びっくり、っていうか……どうしたの? ニノ」
怪訝そうに訊ねるイチの座るソファに寄って、端に腰掛ける。
「どうもしない、けど……」
両手を前について、イチを上目遣いで見る。イチは怪訝な顔から戸惑った表情になった。
「ニノ?」
「あのね、今日、イチの誕生日でしょ? だから」
弥生さんが貸してくれたDVDでは女の子がこんなふうに男の人を誘ってた。胸の谷間を誇張するみたいに腕で胸を寄せて、もともと胸のラインを出すタイプのデザインなのにさらに目立つ。
たぶん、ブラジャーをしていないのもイチには気づかれていると思う。
そう考えるだけで、カァ! と体が熱くなって胸が切ないほど張りつめた。
当惑していたイチの表情が気遣うようなふわりとした微笑みに変わる。
いいんだよ、というふうに。
わたしが無理をしているとバレたのかもしれない。
イチは優しいから、いつだって自分よりも相手の気持ちを優先してくれるのだ。
そういうトコロも大好き! だけど。
首を振って、イチを見つめる。
頬が、熱い。彼の視線に焼けるみたいだ。
恥ずかしい。でも、本当の気持ちを伝えたい。
「ご主人様に、もっと、気持ちよくなって、欲しいの」
うわっ、と声を上げたかと思うとソファからイチが滑り落ちた。
「痛てえ……」
と、呻いて腰をさする。
「だ、大丈夫っ?」
わたしもソファから下りて跪く。
「大丈夫じゃ、ないよ。ばか」
責めるようなイチの視線にわたしは間違えたのかと思った。いきなり、触ったのはやはり性急すぎただろうか?
でも、見るからに……その、元気そうだったから確かめたくてサ。
と、恐る恐る彼の様子をうかがう。
イチは困ったように微笑んで、わたしの後頭部に手のひらを添えると引き寄せた。
唇と唇がそっと合わさって、重なる。
息が乱れるほどの情熱的なキスのあと、「責任とって、くれるんだろ?」なんて色っぽく誘って、彼はわたしの手をそこに優しく導いた。
うんっ、と頷いてわたしは一生懸命責任を果たした。
けど、ちょっと待って!
全然、気持ち伝わってないんじゃないの? その時は嬉しくて、気持ちよくて、イチの甘い言葉にも感じちゃったけど……「それ」じゃ本末転倒なんだってば!
>>>つづきます。
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