ツゥエミール・ラ・ストリミア。
地味な灰色に近い銀髪に、くすんだ青の瞳。
ルーヴェの世話を甲斐甲斐〔かいがい〕しく焼く彼女を、レイドイーグは最初侍女だと思って疑わなかった。
しかし、ふと見せる顔がルーヴェと重なる時があるので、調べたらやはりただの「侍女」ではなかった。
ルーヴェの双子の妹であり、「みそっかす」のツェム。
この妹が姉の自信の根源である、と判断するのに時間はかからなかった。
「 ツゥエミール」
と、名前を呼ばれた彼女は頭が真っ白になった。
「な。な、に? うひゃ!」
いきなり首筋に息がかかり思わず仰け反る。
その時に出した変な声に、彼女の喉元に顔を埋めていた相手がふきだした。
顔をその場にとどめたまま笑うので、ツゥエミールはかかる彼の息のくすぐったさに我慢するハメに陥った。
「こ、皇帝陛下。あの……放して?」
ふるえる声で何とか言うと、彼女を押さえていた腕が強くしなる。
「イヤだ」
と、顔を上げたレイドイーグに息を呑む。
(こ、これがさっきと同じ人だろうか?)
なんか、ちがう。 と思いはするものの、今現在の状況ではそんなことよりもまずは放してもらうことが先決だった。
抱きすくめられたまま、奇妙な動きをする相手の腕に身が竦〔すく〕む。
「こ、困ります。わたし……いや〜〜〜っ! どこ触ってるんですかっ、どこをっ!!」
侍女服の膝小僧が隠れるくらいのスカートの裾をたくし上げられて、太腿の内側をなぞられた。
覆いかぶさる大きな身体を必死に押し上げる。
絶叫するツゥエミールに、目を疑うようなレイドイーグの爆笑がかぶる。
「は、はじめてだ。こんな反応……くそっ、苦しい!」
くっくっくっ、とそれは本当に苦しそうに笑う彼が横にごろりと転がる。ようやく束縛から解き放たれツゥエミールは、しかしどうしたらいいか分からなかった。
逃げればいいのか。
怒ればいいのか。
「 ……… 」
とりあえず。
寝台にちょこんと座って、笑う皇帝の肩のあたりを眺めて離れられずに首を傾げた。
「……もしかして、笑い上戸?」
( 違うけどな )
ツボに入った笑いはおさまることを知らない。
レイドイーグはツゥエミールの呟きに冷静な反応をしつつも、口にすることはできなかった。
彼女が離れないように手首に触れる。
突っ伏しながら覗き見ると、さも不思議そうに彼女は自分の手を見ていた。
安心する。
こんな場所があるなんて、レイドイーグは今日まで知らなかった。
まるで縋〔すが〕るような腕に、ツゥエミールは突き放すことができずいた。
(本当にこれが、さっきまでの荒々しい力と同じ持ち主なのかしら?)
と、疑っているとパチリと突っ伏して笑いをこらえていた皇帝と目が合う。
乱れた金の髪から覗いた青い瞳は、風のない深遠の湖畔のように静かに澄んで動かない。
「私はおまえの姉を追い返したい」
レイドイーグは口にして、ツゥエミールの腕を捕ったまま身を起こした。
ニヤリ、と笑う顔はからかうようにうかがって「いま、気が変わった」と付け足した。
「どうしてだと思う?」
ツゥエミールの指に唇を落として、訊く。
強い眼差しの青に、ツゥエミールは目をそらすことができずに捕らえられる。
その視線に。
「わ、わかりません」
「嘘をつけ」
そのまま、唇をぞんざいに寄せてくる皇帝にツゥエミールは「ひゃっ」と飛びすさって回避した。
彼の手からも自然に逃れて、スタタと扉まで逃げのびる。
ノブにかかる彼女の手を止めて、立ち上がったレイドイーグが見下ろしてくる。
「また、逢ってくれるか? ツゥエミール」
「ダメです……」
横暴かと思うと真摯に訊いてくる彼に、ツゥエミールは困惑した。
もっと、キッパリと拒否しなければならない……姉上様のためにも。
「――もう、逢いたくありません」
そう逃げるように口にする彼女を、レイドイーグは指で乱暴に仰がせた。
「ならば、やはり予定通りおまえの姉を追い出す」
「そんなの……。っや〜〜〜ッ!」
捕らえられたまま絶叫して、ツゥエミールは侍女服のスカートを押さえる。
レイドイーグの手が彼女のスカートを押し上げるように太腿をさすっていた。
「な、何するんですかッ!」 真っ赤になって睨んだ涙目に彼はしれっとして言った。
「だから、予定通りにするんだよ。妹の方に私が手を出したら姉はどうすると思う?」
「 ! 」
「あの性格だから、すんなりとは帰らないかもしれないがな」
反応を堪能するようにふたたび身体の線を服の上からなぞられて、妹は青くなった。
to be...
しなやかに強く。1-2 に続く
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