身を引いて怯えるダフネリアを、アルザスは瞠目して見つめた。
肌蹴た下着姿という、ほとんどの肌を晒した姿で膝を立てると、薄い布で隠されているとは言え彼女の下肢は陽の下に暴かれたも同然だった。普通の遊び慣れた女であればここまでされれば媚びを売ってくるし、堅い淑女であれば泣き叫んで侮蔑を露にするだろう。
(可憐な花……)
アルザスは忘れてなどいなかった。いつだって、ダフネリアは純粋で可憐な姫だった。
だからこそ、傷つけたくなかったし、傷つきたくもなかった。
彼女が思うほど、自分は強い男でもなければ、誠実な男でもない。いつか幻滅されるならば……妹のまま、今のうちに嫌われた方が彼女も自分も楽だろう。
なのに。
嫌われるために選んだハズの強引な行為に、彼女はアルザスを嫌うどころか「嫌わないで」と泣いた。
真っ白な心が、輝いていた。汚すことなど、誰にもできないほどの……ひどく可憐な青の瞳。
夜の帳のような黒く長い髪の中に、涙に濡れて輝く星。
わななく唇。
「おねがい……」
頬に触れると、怯えた体がビクリと硬直する。
どんなに触れても汚れることのない心は、頼りないのにすがってしまいそうなほど強い。
涙の浮かんだ目尻に唇を寄せて、額を合わせ、ハァと息をつく。
「嫌わないから、泣かないで」
ハッ、としてダフネリアは唇を噛んで、涙をこらえた。
その仕草が昔のあどけなさに似て、アルザスは思わず口に笑みを浮かべる。
「その代わり、啼かせてあげる」
「 やっ! 」
息を呑んで、ダフネリアは身を引こうと試みたが背中には書棚が高い壁を作っていて、すでに引くような余地は残っていない。
アルザスに腰を引き寄せられて、危うかった体勢がさらに崩れてしがみつく。
「兄さま……ッぁあ!」
小さな薄い布で隠されたそこに、ふたたび避けるように男の指がもぐってきて、入り口の溝をなぞった。
すでに潤いきったそこに、細く長い人差し指と少し太い短めの薬指が並んで入って彼女の蠢く襞〔ひだ〕を掻き分けていく。彼の太い親指は入り口手前にある彼女のスイッチに添えられていた。
合わさった胸の間にアルザスの手が滑って、露な彼女のふくらみをとらえた。
「あっ、はっ……ああっ。あ、ああ」
かたく尖った先に触れられると、下がとろけだす。下がとろけるとスイッチに彼の親指が強く腹を押しつけてきて中を縦横無尽にかき乱した。
「ん」
半ば開きっぱなしだったダフネリアの唇を、彼のひんやりとした唇が触れて目を上げる。
間近にキレイな男の人の顔があって、冷ややかな亜麻色の眼差しが降ってきた。
触れるだけだった最初はすぐに離れて、ダフネリアが何か口にする前に二回目が塞いだ。
「んん……ッ」
息ができない。
そう思ったら、口の中に何かが入ってきてさらに苦しくなる。
彼の背中に回した腕を強く掻き抱いて、それでも荒れ狂う体はどうにもならなかった。
「っはぁっ! ああ、ああ!!」
ようやく胸いっぱいに空気を送りこんで、次にたて続けに起こされた激しい嵐に呑みこまれた体を痙攣させるとぐったりと意識を失った。
*** ***
キスをされて、別れた。
ダフネリアの黒く長い髪を昔したように撫でて、「可愛く啼けたね」とおかしそうに口にする。
「なく?」
ダフネリアがよく理解できなくて、繰り返すと……アルザスは「先刻〔さっき〕、ダフネリアが出してた声のこと」と教えてくれた。
あんなところでしてしまうのは、彼にしても初めてのことらしかった。
「まあ、機会もなかったし」
ふーん、と相槌をうって……別の女性とああいうことをする彼を想像すると、涙が出そうになった。
アルザスはそんなダフネリアの心の動きを見て見ぬフリをして、くすりと笑う。
「どうする? ああいう場所はいろんな楽しみ方があるんだよ。立ったまま後ろからしたり、机の上でしたり、椅子に座って向き合ってしたり……誰かに見られるかと思うと反応も違うし」
ね、と訊かれても、ダフネリアには答える知識がなかった。
「……兄、さまがしたいなら」
考えに考えて出した答えだった。
「安心していいよ、ダフネリア。最後まではしないから…… 俺じゃない 誰かと結婚しても大丈夫なように教えてあげる」
自室の寝台に身を投げ出したダフネリアは、肩をふるわせて唇を噛んだ。
『 泣かないで 』
泣かない。
こんなことで、泣いたりなんかしない。
そうすれば、兄さまが助けてくれる――。
5, 選ばれた処女〔おとめ〕 に続く
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