ぇぶ くらっぷ より 6


〜Sumire and Akemi〜
■拍手ページから落ちてきました■
こちらの 「うぇぶ くらっぷ だより」 は、
「龍の血族〜Sumire and Akemi〜」の「うぇぶ拍手」用に書いた
オマケ番外SS/加筆修正版です。
時間列としては、「P-kan! 常夏 ココナッツ」の少し前。
初夏の商店街。主婦の楽しみはやっぱり、買い物!
……って、拍手でやってたのはこの さらに その後の話ですが。
諸事情により 別ページ 仕様です。
 エッチ度=★☆☆☆☆



 リビングで新聞の折込チラシと真剣な表情で睨み合っていた竜崎朱美〔りゅうざき あけみ〕は、その瞳をキラリと閃かせると黒のラッションペンでマルッと大きな円を描いた。
「ねーねーねーねー」
 チラシを眺めたまま、キッチンのテーブルでおやつを食している長男に声をかける。
「今から、ヒマ? 蒼馬」
「ヒマじゃない」
 即答で返ってくるつれない返事に、「なになに? 日向ちゃんとデートのやくそく?」と気味の悪いにへらとした笑顔で訊いてくるから、蒼馬はウンザリしたように椅子から母親を見下した。
「なんで、日向が出てくるんだよ。今日は結構たくさん宿題があるんだから」
「なーんだ」
 と、さもツマンナイと唇を尖らせて朱美はチラシを小さく折りたたんだ。
「じゃあ、 ヒマ なんじゃない」
 なんで、そうなるんだ? と蒼馬の表情は雄弁に語っていたが、出かける準備を始めた彼女にはまったく効果がなかった。というか、たぶんシッカリ 無視 されたと思われる。
 その証拠に――。

「母さん、どっか行くの?」

 という、問いには弾んだ声が返ってくる。
「駅前の商店街までよ、蒼馬くん。お母さんとデートしましょ」
「……商店街?」
 てとてとてと、と母親にくっついて歩く弟は、二人のやりとりに首を遊ばせて……「あいー」と手を上げる。
「由貴ちゃーん、お母さんとお兄ちゃんとのデート、楽しみねえ」
「はいー」
 よく意味を理解していないだろう一歳の弟は無邪気に笑うと、母親に抱きついた。


   *** ***


 夏をさきがけ! アーリーサマーカーニバル★

 柳ヶ丘の駅前にある商店街の入り口には、煌びやかな文字とともにそんな横断幕が吊られていた。
 そのすぐ下には、テントをはってはっぴを着た商店街活動推進会の人々が拡声器を持って行く買い物客へと威勢のいい声をかけている。かと思えば、その隣ではガラガラと福引の抽選会が行われていたり。
 ちょうど、何かが当たったのかカランカランと受け付けの若い女の子が鐘を打ち鳴らした。
『奥さま、おめでとうございます〜』
 拡声器を持った男性がいって、女の子は中年の女性に景品である箱を渡した。
『四等のコレでいつでもカフェ気分♪ エスプレッソ・コーヒーメーカーでございます〜どうぞ、お持ち帰りください』
 張り出された景品のそれぞれには印がつけられていて、当たりが出ると赤い札が下げられる。
 現在のところ、特賞と一等それに二等と五等が残っているようだ。
「よしよし」
 由貴の乗った手押し車を押した朱美が、その状況にご満悦に微笑んだ。
「特賞はまだ残ってるわね。よかった」
 そんな母親に、蒼馬はほとんど諦め顔でつっこむ。
「母さん、どうでもいいけど……特賞って、高望みしすぎだろ?」
 見れば、特賞は豪華海の露天風呂で二泊三日だった。しかも、ご家族さまご招待って――かなり、頑張ったって感じだ。
 二等の冷蔵庫だって、主婦からすれば結構な上物だと思う。いや、俺は主婦じゃないけどさ。
 それだけ、競争率は高いらしく……商店街の賑わいは凄まじい。

「こんなの。そう 簡単に 当たるワケがないじゃないか」

「何を言うの、蒼馬。簡単に当たらないのは先刻承知の上だわ。こういうのは、諦めたらそれで可能性がゼロになっちゃうの。分かる? 諦めちゃダメなの! 宝くじは買わなきゃ当たらないっ、福引だって挑戦しなきゃ当たらないのよ!! 外れても、外れても、当たるまで頑張るの。それが、特賞への道ってモンだわっ」
 ……そんな道は知らなくていい、とばかりに蒼馬は小学生にしては悟りきった息をついた。
「で、どうするの?」
 訊くまでもないことだった。
「もちろん!」
 息巻く朱美は握り拳を突き上げて声高らかに、宣戦布告した。

「 買い まくる のよ!! 」


 商店街で百円分買い物するたびについてくる福引券一枚が十枚揃えば、福引に一回挑戦できる。
 つまりは、商店街でたくさん買い物をすれば、挑戦権もたくさんもらえるワケである。


 普段は特売まで我慢するようなモノまで買って商店街活動推進会の思惑に思いっきりハマっているような気がしないでもない、と蒼馬は思った。
(ま。母さんはそんなことカケラも考えてないだろうけど)
 と、どこの産物か分からない置物とにらめっこしている朱美を見上げた。
「これ、ください」
 どう考えても、飾る場所のなさそうなそれを彼女は選んだ。
(いや、いらないだろ? それは)
「あっ、その電気たこ焼機もちょうだい」
(おいおい)
「はいー」
 あげくの果てに、由貴がたまたま手にしたチョウザメの卵(キャビアだ!)までも籠の中に入れる始末。
「か、母さん……」
「ん? なあにー」
「そんなに買って、どーすんのさ」

「もちろん、 福引 よっ」

(って。そうじゃないだろっ! せめて、使えよ。あるいは、食えっ!!)
 蒼馬はあからさまに責める眼差しで母親を見上げ、つくづくと(母さんだなあ)と思う。
「それなら、普通に家族旅行にお金使ったほうが安くつくんじゃ……」
 もっともな、長男の意見に朱美は「馬鹿ねー」と見下す。

「福引で 当てる からいいんじゃない! 勝った!! って思うでしょ? 勝者になってこそ、旅行をする 資格 ができるってモノだわ」

 そんな資格はいらないから帰りたい、と蒼馬はガックリとうな垂れた。
 カランカラン、と鐘の音が響いてガッツポーズで家族旅行をゲットするまで……彼女の 無駄に 熱い戦いは続くのだった。



(まあ、――当たっただけラッキーなんだけどね)
 帰り道、夕陽を浴びたホクホク顔の母親を見上げて、蒼馬はそんなことを 幸せ なんじゃないかと考えた。


おわり。 ・・・> さらに続き。(★弱R18指定)

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