P-kan! 夏 ココナッツ。その前。


〜Sumire and Akemi〜
 エッチ度=★★☆☆☆



 初夏の夜半過ぎ。

 布団から出ると、ジャーン! と竜崎朱美〔りゅうざき あけみ〕はチェストからひとつの封筒を取り出した。
 ベッドの上で事後の処理をしていた夫である菫に嬉しそうに見せびらかすと、裸のまんま再びベッドに入って寄り添って開けるように促した。
 入っていたのは、赤いラインに青い海をなぞらえた写真〔絵〕の写った「ご家族さまご招待券」と書かれた紙が一枚。封筒には、「特賞」の文字が押印されていて「竜崎さま、おめでとうございます」と流暢な筆で書かれている。

「当たったの?」

 訊けば、コクコクと弾んだ声で頷く。
「そうなの! 今日ね、駅前の商店街に行ったら「夏をさきどり! アーリーサマー」とかやってて、そこの福引でっ」
 先ほどまでの情事よりも はるかに 興奮した表情で恍惚となると、朱美は菫の膝に頭を乗せて彼を見上げた。
「見て! 特賞なのよ、スゴイでしょ!!」
「うん」
 確かに、スゴイ。
 リビングのテーブルの上に山積みにされたテッシュの数と、新調してきたらしい水着の存在を菫は知っている。というか、先ほどお披露目されたソレを寝室で脱がせたのは、誰あろう 自身だ。
 そうか、あのビキニはこのための?
 ウキウキと心弾む朱美の様子に至極、納得して、菫は謎めいた彼女の行動の一部始終が解明されたとぼんやりと思った。
「海よ、温泉よ、露天風呂なのよーっ! って。なによ? 菫さん、もっと ほかに ないの!」
「……ほかに?」
 裸の彼女の肩にシーツをかけて包〔くる〕んで、思案する。
 抱き寄せられた朱美は菫に抱きついて、その顔をうかがった。
「そうだな。露天風呂って個室?」
 真面目に彼は訊いて、「個室じゃないなら、変えてもらわないと」とか真剣に口にしたものだから、朱美は困惑した。
「え? 分かんないけど……」
 と、ムムッと口を曲げる。
「菫さんってば、ナニ、考えてるの?」
「邪なこと」
「やっぱり? そーいうことなの? 露天風呂でチョメチョメってコトなの? ダメよっ、イケナイわっ。蒼馬たちも連れてくんだから!! 百歩譲って蒼馬たちが寝たあとだって、露天風呂じゃ誰かに聞かれちゃうかもしれないしっキャー! 絶対ダメっ」
 メッ、とハイテンションな朱美にたしなめられ、菫は「そう?」と残念そうに首をかしげた。
 まるで、朝の散歩を断られたかのような さわやかさ だが……。
「じゃあ、砂浜とか岩場とか……」
 こらこら。
「ダメ、だめ、駄目ぇー! 菫さん、覚えてないの? 砂浜なんて砂が入って痛いだけだったし、岩場なんて背中傷だらけになっちゃったじゃない。却下よ、却下!!」
 全部、経験済みなあたりが天晴れというか。
「うーん。じゃあ、やっぱり露天風呂だな。海辺の露天風呂なら声もかき消してくれそうだし。気持ちいいよ? そう思わない?」
「……うっ」
 まあね、そうかもね。
 と、彼の誘惑に思わず想像力を発揮して、朱美はグラリと一気にそっちへ傾いた。だって、元来、お風呂でするのは嫌いじゃない。

「 ――する気になった? 」

 ニッコリと艶のある紫がかった瞳に見透かされて、朱美に断ることなどできなかった。
「……蒼馬たちが寝てから、だからね!」
「わかった」
 十中八九、旅先の子どもたちの就寝は早いだろう。
 菫は容易く予想して、手元に置いていたビデオカメラをチェストの上にセットする。
 朱美の肩からシーツを滑らせ素肌の曲線を露にすると、スレンダーな体の小振りな胸に指先を這わせて輪郭をなぞった。なだらかな丘をふわりと登って、静かに訊く。
 ぷっくりと尖った先が、美味しそうに熟れているからかじらずにいられない。

「もう一回、撮っていい?」

 ヒクリ、と歯を立てられた彼女の体は反応して、「ダメ」とは答えられなかった。


 おわり。

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