ぇぶ くらっぷ より 3


〜Sumire and Akemi〜
■拍手ページから落ちてきました■
こちらの 「うぇぶ くらっぷ だより」 は、
「龍の血族〜Sumire and Akemi〜」の「うぇぶ拍手」用に書いた
オマケ番外SS/加筆修正版です。
時間列としては、「It's あ ショウタイム!」の半年前。其の弐です。
子供服ファッションショーの裏側。
其の壱を読んでないよ、という方は、 コチラ をどうぞ♪
 エッチ度=★☆☆☆☆



 幕の開いたショーのライトに目がくらんで、竜崎蒼馬はしばらく呆然と立ちつくした。
 真新しい秋服を身に着けているから、なんとなく体の筋肉もギクシャクして、まるで自分のモノではないみたいに力が伝わらない。

『 蒼馬 』

 と、笑いをふくんだ父の声にようやく反応して顔を上げる。
 眩〔まばゆ〕いライト、それを背にした父親が由貴を抱いた腕とは反対の手を差し伸べてくれる。
 いつもは、ぼんやりとした物静かな父だけど、場慣れしているだけあって身内から見てもカッコいいかもしれない。
『 おいで 』
 ほほえみ。
 緊張がほぐれて、立ちすくんでいた足が前に出る。
 いったん出てしまうと、あとはリハーサルの通りに習いたてのウォーキングが勝手に体を動かしてくれた。
 ショーの終盤になると、ほかの子どもたちと一緒に縦横無尽に舞台を駆け回ったり……フィナーレを迎える頃には結構楽しくなって、自然に笑っていた。
 舞台袖で見守っている母親が、ウィンクして右手の親指と人差し指をつないで丸をつくる。

『カッコいいゾー』

 ニッカシ、と笑って思いっきり舌を出す。
 後ろでわずかに父が苦笑する気配がして、あれ? と交互を見比べた。

(――父さんと母さん、なんかあった?)



 と、舞台袖に下がってきた蒼馬が疑問を口にする前に朱美がとんでもないことを言い出したので、それどころではなくなった。
「はい」
 彼女は今回の子供服ショーのプレゼン担当である水野陽平に茶封筒を差し出すと、見てくれるように促した。
 陽平は封筒を受け取って、中の書類を確認する。
「……かぐらみひなた?」
 思わず、蒼馬は転〔まろ〕びそうになった。
 ぎょっとして、「なっ、か……ちょっ」ろくな単語もつくろえずにうろたえて、朱美の服をひっぱる。
「そー、できたら蒼馬とペアでつかってやってよ。心配しなくても、日向ちゃんのお母さんには了承済みだってば! 安心した?」
「そんなこときいてないし……何、勝手なことしてんの?」
 今日のショーのことだって十分大変だったのに、さらに日向がくわわるなんて問題外だ。しかも、ペアだなんて……蒼馬は自らの苦労を察して阻止を試みたが、いつものごとく この 母には通じない。
 「照れちゃって、このー」と、朱美は肘で息子をつつくとくすりと笑った。

「なんたって、蒼馬は日向ちゃんにメロメロだもんねー」

「へー、そーなんだ? ちょうどよかった、じつは男女ペアの企画があったんですよ――」
 「メロメロじゃないってば……」と力なく抗議しながら、蒼馬はアッサリと許諾する陽平に呻〔うめ〕いた。
(なんで、そんな簡単に決めちゃうのさ! 日向のドジは天然なんだからタイヘンなんだぞっ)
 服飾関連企業『苑』の切実なモデル人員不足の内情を知らないから、恨みがましく陽平を上目遣いで睨んだ。

「 なあ、おまえも聞いてるだろ? 」

 とは言え、そんな少年の視線には気づかずご満悦の彼は、蒼馬の後ろからやってきた菫へと投げかける。
 由貴を抱いたままの菫は「ああ」と相槌をうった。
「アレか……婦人服と紳士服と子供服総合のブライダル企画、話は聞いてるけど」
 モデルの確保だけでも一苦労しそうだと、頭を痛めた企画だったので苦々しく口にする。
「そうそう。蒼馬くんと彼女のペアなんて大助かりだと思わないか?」
「まあね、そっちはそうだろうけど」
 間に挟まれた朱美は「うげっとはなんだ、うげっとは」とうろたえる長男をからかっていた手を休めて、キョロキョロと菫と陽平を交互に眺めた。
 「ブライダル」とは聞き捨てならない。女の一生の夢ではないか……たとえ、一度している身の上であろうとも、そのあたりは不変である。
「なになに? ウェディングドレスとか着れちゃうの?」

「そうですよ」
 と、間髪いれずに陽平が肯定した。

 千載一遇のチャンスだと、たたみかけるように誘ってみる。
「着てみませんか? 朱美さん」
「水野」
 刺すような菫の視線もこのさい無視をする。一発くらいは殴られてやるさ、と挑戦的に微笑んだ。
「いいだろう? 竜崎……おまえだって、朱美さんのウェディングドレス姿は見たいんじゃないのか。アレは何度見てもいいっていうぜ」
 とーぜん、それは自分のために着てくれる――という前提での話だが。
「菫さん! わたし着たい! ダメだって言ったっても着ちゃうからねっ」
 すでにやる気マンマンの朱美は、宣言して夫の腕から次男を引き受ける。
 「だぅ、まーまー」と懐いてくる由貴にギューと力をこめて、はしゃいだ声で「うぇでぃんぐどれすだよー」とくり返した。
 菫は、肩をすくめると身をかがめてそっと彼女の耳元にささやいた。

「 ひとつ、条件があるんだけど――いい? 」



 その一種独特の雰囲気に、陽平はあさっての方向を向いてしのいでいた。独身貴族には目の毒だ。
(んー?)
 と、いつの間にか横には彼ら二人の長男がいて、じーっとこちらをうかがっている。
 うかがっている、というか……むしろ、睨まれているような気もするが。
(気のせい気のせい)
「水野」
 呼ばれてふり返ると、菫が憮然としながら妥協した。
「今回だけ、だからな」

 一体、彼がどんな条件で承服したのか。

 分かるような気もするが、陽平は独り者の安寧のため気づかないフリをした。


おわり。

■序「It's あ ショウタイム!」その条件。■

「 ひとつ、条件があるんだけど――いい? 」

 紫がかった色素の薄い目にびっくりした自分の顔が映っているのを見て、朱美はコクリと喉を鳴らした。
「な、なに?」
 見慣れているハズなのに、キレイなその眼差しにはいつもドギマギとしてしまう。
 耳元で囁く声だって、艶めいていて変な気分になりそうだった。
 にっこりと無垢に笑った彼の言葉は、さらにどっかん! と朱美を戸惑わせた。
(ここは、公共の通路なんですけど!)

「――ホラ、あの時できなかったし」

 淡白な表情を曇らせて悩ましげに見つめられ、朱美は唸るしかない。
「ダメかな?」
「……ずるい、そういう言い方」
 上目遣いで菫を睨むと、唇を尖らせてそっぽを向く。
 耳を赤く染めて、目だけを彼へ熱く寄せた。
「 わたしが、あなたに弱いの知ってるくせに 」
 目を瞬〔しばた〕かせて、ワザとらしく覗きこんできたから、朱美は「もう!」と真っ赤になって押しのける。
 もちろん、彼女の力ではビクともしない。
「知らないんだね? 僕はもっと、君に弱いんだ」
「ふーんだ、調子いいんだから!」
 チロリ、と睨む朱美のまなじりに菫は唇を寄せて、離れる。
 やわらかに笑って、「返事は?」と促〔うなが〕した。
 こくん、と朱美が首を縦にふると、背後から抱きしめる。

「 よかった。本当は、あの時もドレスから 君 を奪いたかった 」

 思いつめた眼差しで照れまくる朱美をとらえ、菫はその耳朶にやさしく口づけた。


おわり。

BACK